焚き火の達人・堀之内健一朗さんに聞く、焚き火の極意とは?

キャンプやアウトドア人気が高まりを見せる中、最近特に注目を集めているのが焚き火です。一度は自分もやってみたい、これから始めたいと思う人も少なくないのではないでしょうか。とはいえ、焚き火をするには道具が必要だったり、火をつけるのが難しいイメージがあったり、ビギナーにとっては少々ハードルが高いのも事実。

そこで今回は、焚き火の知識と関連用品の品揃えの豊富さで数多くのキャンパーが厚い信頼を寄せている、「火とアウトドアの専門 iLbf(イルビフ)」の店主・堀之内健一朗さんを直撃!実際に焚き火にあたりながら、焚き火に必要な道具とその選び方、素早く火をつけるコツ、さらに焚き火を行う際のマナーなど、焚き火の極意を伝授していただきました。

私たちが火に魅せられるのはなぜ?

グランピングの登場や、キャンプをテーマにしたアニメが人気になるなど、ここ数年、キャンプやアウトドアへの関心が高まっています。さらに、コロナ禍になって以降は、ソーシャルディスタンスや密を避けるといった観点からも、「“外で過ごす”という意識が高まっている」と堀之内さんは言います。

それに比例する形で、焚き火に魅せられる人も多いのだとか。確かに、ゆらゆらと揺れる炎を見ていると、リラックスした気分になります。なぜ、人は焚き火に惹かれるのでしょうか。

「よくいわれているのが、炎は人間の遺伝子に働きかけるとか、揺れる炎にはリラックスを促す『1/fゆらぎ』があるといったことですね。確かに、焚き火が持つヒーリング効果は高いと思います」

それだけでなく、「太古から続く人間と火の関係性も大きく影響しているのではないか」と堀之内さん。

「地球上にいる生物で好んで火をつけるのは、人間しかいないんですよね。そもそも火というのは、火山や落雷、干ばつによる自然発火など、自然界にとっては災害でしかありません。でも、人間はたまたま火をつける技術を身に付け、火を制御することによって進化を遂げました。例えば、火があることで獣から身を守ることができたり、火があるおかげで食べられる物が増えたり。また、自然の中に火があると、明るさや温かさなどから、人は集まってくるものです。そういった無意識の行動によって、コミュニケーションが発達したという説もあります。
それくらい、人間と火は密接な関係にあるはず。なので、人が炎に魅了されるのも自然なことのような気がします」

揺れる炎のほかに、薪が燃えるときに起こるパチパチとした音も心地いいもの。焚き火には、人の気持ちを落ち着かせる要素がそろっているのかもしれません。

焚き火をするには何が必要?

それでは、焚き火を始めるには、どのような準備が必要なのでしょうか。

まずは焚き火台を用意しよう

「多くのキャンプ場では、地べたで直接薪を燃やす直火(じかび)を禁止していますので、焚き火台を用意しましょう。焚き火台には大きさや形状はもちろん、調理ができる物、あるいは火を鑑賞する用と、さまざまな種類や特徴があります。ですが、1台目に買う物は、そんなにこだわらなくていいと思いますね。

まずは、焚き火をやってみる。そうやって続けているうちに、自分が焚き火に求めるものや目指す方向性が定まってきて、自ずと適した焚き火台が見えてきます。2台目を見つけるための1台目というくらいの気持ちで、最初から高い物を買う必要はありません」

ためらいなく使いたい着火材

続いては、火起こしの場面で活躍してくれる、着火材についてお聞きしました。

「初心者の方には、火をつけるのに苦労しないよう、ためらいなく着火材を使ってほしいです。着火材は固形の物でもチューブ式の物でも、どちらでも構いませんが、チューブ式の場合は注意が必要です。 焚き火初心者の方に多いのが、途中で火が弱まったからといって、チューブ式の着火材を火の上から絞って注いでしまうというもの。そうすると、着火材に火が燃え移って炎上してしまい、やけどや事故につながるおそれがあります。火の上からチューブの着火材を注ぐのは絶対にやめましょう」

焚き火台と着火材がそろったら、あとは薪を用意すれば焚き火の準備はOKです。その薪も、火つきや火持ち、音、香りなどさまざまな種類があり、奥が深いのだとか。

「初心者の方でしたら、火つきや火持ちが良く、どこか懐かしさを覚える香りのする欅(ケヤキ)、香りが良くて調理にもおすすめの桜、手軽に入手しやすい楢(ナラ)などを選ぶといいと思います」

このほかに「iLbf」では、火持ちがいい椚(クヌギ)や樫(カシ)など、常時数種類の薪を用意しているとのこと。薪選びに迷ったときは相談にのってもらえるそうなので、心強いですね。

薪の温度を300℃にすることを目指そう

初心者が焚き火をするにあたり、最初にして最大の難関となるのが「なかなか薪に火がつかないこと」。スムーズに火をつけるためには、火つきの良い薪を選ぶことも重要ですが、火のつけ方にもコツがあるといいます。

「薪を燃やすために必要なのは酸素と燃料、そして温度の3つ。特に温度は重要で、薪は温度を上げないと燃えないんですよ。薪が燃える仕組みは、木の繊維が分解され、出てきた可燃ガスに引火して燃えるというもの。この可燃ガスが出てくる温度の目安が300℃なんです。
薪の温度が上がらない原因として考えられるのは、薪が湿っていることと、薪が大きすぎることの2つです。なかなか火がつかないときは、薪を割って細くしましょう。細くすることで、木の水分が蒸発しやすく、薪の温度も上がりやすくなります。ただ、薪割りをするには斧や本格的なナイフなどの道具を準備する必要があり、最初は力加減が難しいかもしれません。なので、初心者の方はあらかじめ細い薪を購入しておくのがおすすめです」

焚き火経験者の中には、煙ばかり出て火がつかない状態に陥ったことがある人もいるのではないでしょうか。この状態は堀之内さん曰く、「着火のチャンス」なんだとか。

「煙が出ているということは、可燃ガスが出ているということです。きっかけさえ与えてあげればすぐに着火するはずなので、その状態のところに着火材を入れて火をつけたり、ライターなどで火を近付けたりしてみてください」

これだけは守って!焚き火を行う際のマナー

焚き火台や着火材、薪など必要な物をそろえたら、いよいよ焚き火へ!といきたいところですが、初心者だと焚き火をしていい場所を、そもそも知らないことが多いかもしれません。

「焚き火をするのに一番いいのはキャンプ場です。昔は、河原などで焚き火をされた方が多いかもしれませんが、多くの自治体では河川での焚き火を禁止にしています。公園や空き地での焚き火も基本的にNGです。焚き火ができるキャンプ場など、許可された場所で安全に行ってください」

安全な焚き火をするには、マナーやルールを守ることも大切です。特に火の扱いに関しては十分に意識したいところ。

「焚き火で最も重要なのは、自分がコントロールできるサイズの炎で行うこと。実は、火を大きくするのはそれほど難しいことではありません。ただ、それをコントロールするのが難しいんです。手がつけられないほどの炎は大きな事故につながることもありますから、そこは注意してほしいですね。目の前にある火を消そうと思えばすぐに消せて、大きくしようと思えばすぐにできるという、自分でコントロールがきく範囲での焚き火を心掛けてください」

さらに、後片付けにも守ってほしいルールがあります。

「焚き火に限らずですが、キャンプ場に持ち込んだ物はすべて持ち帰るのが基本です。よく、薪を燃やした後に残る炭は自然に還る物だと思って、そのまま地面に捨ててしまう人もいます。ですが、何千年も前の炭が化石となって出てくるくらい、炭って残る物なんです。黒く焦げた炭を放置すると、自然の景観を汚すことにもなるので、きちんと持ち帰るようにしてください」

炭を持ち帰る際は、きちんと火が消えているかの確認も重要。消火の仕方には、専用の火消し壼や、ステンレスまたは鉄製の入れ物に密閉する、薪が燃え切って白い灰になるのを待つ、水を使って消すといった方法があるそうです。

「焚き火台に、直接水をかけて消すのは避けましょう。急激な温度差が生じて、焚き火台の変形や破損の原因となってしまいます。できればバケツなどの容器に水を張り、そこにトングなどで薪や炭を入れて消すことをおすすめします。持ち帰った炭は自治体にもよりますが、燃えるゴミとして捨ててOKなところが多いようです」

多くのキャンパーやアウトドア愛好家に愛される「iLbf」

火とアウトドアの専門ショップとして2016年10月にオープンした「iLbf」。店名は「I Love the Bonefile(私は焚き火が大好きです)」の頭文字をとっており、その名のとおり、店内には焚き火台や薪ストーブ、ランタンといったギアや、堀之内さんが厳選した薪などがそろっています。

「焚き火が大好きすぎてこういうお店を作ってしまったので、ギアに関しては、国内外問わず自分がいいと思った物を扱っています。オープン当初こそ、こだわりを持った玄人向けのショップという感じでしたが、最近はキャンプ初心者の方や、これから焚き火を始めたいと思っている方に来ていただくことも増えてきました」

グランピングやキャンプを始めるにはまだ抵抗があるけれども、試しに焚き火だけやってみたい。そんな方には、ショップの隣に併設された「体験型焚火カフェBonFireCafe(ボンファイヤカフェ)」の利用がおすすめです。カフェスタッフがいる日にはキャンプ料理を彷彿とさせるさまざまなオリジナルメニューが味わえるだけでなく、薪割りから着火、簡単な調理も楽しめる焚き火体験(予約制)が楽しめます。

「焚き火は、こんなことができるよっていうのを、ほんのさわりでもいいので知ってもらえたらと思って始めました。道具を買う前の予行演習としてもおすすめです。最近は、日常生活の中で火に接する機会が減ってきているため、お子さん連れのお客さまなどには、特にご好評をいただいています」

時には閉店後に、スタッフと焚き火を囲むこともあるという堀之内さん。「業者の方が来て、そのままお店で焚き火しましょうっていう流れになることも」と笑います。

「やっぱり、火があるところに人は集まってくるんですよね。それに、焚き火を囲みながら話すと、普段より深い話ができる気がします。リラックスしながら仲間と語らうも良し、もちろん一人で火を見ながら物思いにふけるのも良し。いろいろな楽しみ方ができるのも、焚き火の魅力だと思います」

そんな堀之内さんには今後、焚き火にまつわるこんな夢があるといいます。

「もうちょっと焚き火ができる場所が増えたらいいなという想いがあり、いつかキャンプ場ならぬ『焚き火場』を造れたらと妄想しています。イメージとしては、漫画喫茶の焚き火バージョン。もっと気軽に、ふらっと来て、焚き火をして帰る…みたいことができる施設を造りたいですね。
ゆくゆくは『焚き火アパート』なるものも造れたらと考えています。焚き火を楽しむためのアパートで、各部屋には薪ストーブを備えて、共有スペースには焚き火ができるところがあって…。焚き火で描く夢には終わりがありません(笑)」

<プロフィール>
堀之内 健一朗(ほりのうち けんいちろう)

「火とアウトドアの専門 iLbf(イルビフ)」のオーナー。埼玉県三郷市にあるみさと団地南商店街に、焚き火関連のギアや薪などを販売するアウトドア専門店を構える。大手アウトドア用品店ではお目にかかれないマニアックな商品が豊富で、都内から三郷まで足を運ぶファンも多い。焚き火と食の融合をテーマにした「体験型焚火カフェBonFireCafe(ボンファイヤカフェ)」を併設し、手軽な焚き火体験サービスも提供。焚き火専門家として、テレビ番組やイベントなどの焚き火演出の監修も手掛けている。

iLBf - 火とアウトドアの専門 iLbf イルビフ

※感染対策に十分に配慮して2021年10月に取材および撮影を行いました。

 

執筆者プロフィール

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