見上げてみよう、夜の空。初心者でも今日から楽しめる天体観測のコツ

「私たちは星の材料でできている」と、天体物理学者のカール・セーガンは言いました。心配事や不安に押しつぶされそうなとき、夜空の星を見上げて気持ちを奮い立たせたくなるのは、自分がその一部であることを漠然と自覚しているからかもしれません。

都会の狭い空でも星は瞬き、私たちを悠久の宇宙へと誘っています。これまで漫然と眺めてきた星のことを、「もっと知りたい」「もっと近くに感じてみたい」と思い立ったら、天体観測がおすすめです。
今回は、初心者でも今日からできる天体観測のコツを、星空案内人・木原美智子さんに教えてもらいました。

月明かりさえあれば、都会でも天体観測ができる

――始めに、「星空案内人」について教えてください。

木原さん(以下敬称略):
星空案内人は、星や宇宙の魅力を伝える人です。星空案内人資格認定制度運営機構が運営する講座を受講し、レポート提出や実技試験などを経て取得できる民間資格です。

星空案内人の木原美智子さん。

この資格を活かして、各地の天文台をはじめ、学校や科学館、公民館などで星空のことを教えたり、イベントで星空のガイドをしたりするなど、さまざまな活動をしている人は大勢います。
私の場合は、勤めている旅行会社で星や宇宙の魅力にふれていただくイベントや旅を企画・運営する際に、資格が役立っていると感じています。

――ずっと星空に関わったお仕事をされているのですね。元々は、何がきっかけで天文に興味を持ったのですか?

木原:
中学生の頃に読んだ、「ふたつのスピカ」(メディアファクトリー)という漫画がきっかけです。とある理由で女の子が宇宙飛行士を目指すお話で、すっかり虜になりました。そこから一途に空に関する仕事を志して、大学で天文学を学び、天体望遠鏡メーカーに就職。しばらく、フリーの案内人として活動したのち、今に至ります。

――漫画がきっかけだとは…!宇宙との出合いは、意外と近くにあるものなんですね。

木原:
そうなんですよ。私と宇宙との出合いが身近であったように、天体観測への入り口も生活のすぐそばにあると思うんです。
天体観測といっても、肉眼で星空を楽しむものから、機器を使って本格的に観測するものまでさまざま。「星空を見るために山奥まで行くのは大変そう」「どこでどうやって始めればいいかわからない」と思われがちですが、目的によってはそれほど遠くに行く必要はありません。星空案内人がいるようなイベントなら、身一つの参加で星空を見上げるだけでいいですし、天体望遠鏡など仰々しい準備をしなくても大丈夫です。

宇宙をテーマにした漫画は、各社からさまざま出版されている。

実際、私たちの会社でも、東京駅のすぐそばにあるビルの屋上で星空イベントを開催しています。東京のビルの上からでも、観測ポイントを押さえていれば、土星の輪っかまでくっきり見えるんですよ。皆さんにもぜひ、ふとしたときに星空を見上げることから始めてみてほしいです。

天体観測をもっと楽しむには、テーマ決めからスタートしよう

――初心者が天体観測を楽しむためには、まずは何から行えばいいですか?

木原:
天体観測で何をしたいのか、テーマを決めることから始めましょう。
テーマといってもそんなに難しく考える必要はありません。例えば、「ニュースで話題になっていた流星群が見たい」「子供に満天の星を見せてあげたい」といったざっくりとした目的があれば、天体観測のきっかけとしては十分です。

<天体観測のテーマ例>
・流れ星が見たい
・空いっぱいに星が瞬く満天の星空を見たい
・天の川を見たい
・授業で習った星座を探してみたい

ちなみに、私は教科書に載っている星や星座を一つひとつ探すことから始めました。教科書にはこう書いてあるけど、「本当に存在しているのかな?」と思って(笑)。ちょっと珍しい入り方かもしれませんが、自分の興味に素直になることが、星空を楽しむ第一歩だと思います。

――テーマが決まったら、次は場所でしょうか?

木原:
そうですね。「いつ」「どこで」見るかを決めましょう。
ただ「星が見たい」という目的であれば、近くの科学館のウェブサイトや、地域の情報が掲載されている市報、区報などをチェックしてみてください。さまざまなテーマで、イベントが開催されていると思います。お子さんが小さくて遠方へのお出掛けに不安があるご家庭でも、こうした地域のイベントは気軽に参加できるのでおすすめですよ。
一方、見たい星座や目当ての惑星があるときは、「見える時間」と「見える場所」を事前に調べておきましょう。星空の情報を掲載している星空に関するウェブサイトやアプリが手軽で便利です。

――ウェブサイトやアプリの活用は、初心者でも簡単ですね。

木原:
行き先と行く日程が決まったら、いつもの旅行の計画を立てるときといっしょです。宿を予約するのであれば、宿の人に「近くで星空がよく見える開けた場所はありますか?」と聞いてみると、良い観測スポットを教えてくれると思います。

星空がよく見える地域で暮らす人にとっては、きれいな星空が身近にあるのは当たり前のことなので、「星なんていつでも見えるのに」「星を見るより、名所を見に行ったほうが良い」といったネガティブな反応が返ってくるかもしれませんが、そこは気にしないことも大切です(笑)。
なお、天体観測は雨が降るとできませんので、天気予報のチェックも忘れずにしておくといいですね。

木原さん撮影、冬の大三角形。

木原さんおすすめ!天体観測に持っていきたい5つのアイテム

――天体観測に持っていくと良いアイテムはありますか?

木原:
天体観測の必需品と、あると便利なアイテムをご紹介しましょう。

・赤いライト
天体観測は暗い場所で行うので、安全性の観点からライトが必須です。とはいえ、スマートフォンのライトの光は明るすぎるので、直接目に入ると星の弱い光が見えません。
そこで活躍するのが、赤いライトです。赤い光は瞳孔が閉じず、暗闇を邪魔しないため、携帯用ライトを首にかけておき、必要なときにさっと足元を照らせるようにしておくと安心ですよ。
私は天体望遠鏡メーカーVixen(ビクセン)の、天体観測用ライトを愛用しています。

・星座早見盤
星座早見盤は、「学校で使ったことがある」という人も多いのではないでしょうか。レトロな感じが懐かしく、持っているだけでもなんとなく気分が上がるのですが、日付と時間を合わせるだけで「今日見える星」を示してくれる優れものでもあります。
星図早見アプリもあるのですが、観測の際はスマートフォンなどの明かりが邪魔してしまうこともあるため、赤いライトで早見盤を照らして見るのがいいと思います。サイズやデザインはいろいろあるので、好みのものを選んでください。私はいつも小型サイズの星座早見盤を携帯しています。

・双眼鏡
「天体観測には、天体望遠鏡が必須なのでは」と構えてしまうかもしれませんが、簡単な星座などは肉眼でも十分に楽しめます。
もう少しよく見てみたいというときは、コンサートや舞台観賞などで使う一般的な双眼鏡があればOK。細かいところもよく見えますよ。

・上着や羽織れる衣服
自然に近い場所で天体観測をする場合は、羽織り物を1枚持っていきましょう。空気が良い開けた場所は、夜になると夏でも肌寒いことが多いもの。快適に星空を見るために、薄手のカーディガンやシャツなどがあると安心です。

・虫除け
虫除けは、夏の時期の必須アイテムです。蚊が耳元に来たら気が散ってしまいますし、刺されたらせっかくの天体観測の時間が集中できないものになってしまいます。

いざ本番!天体観測で心掛けたい注意点を知っておこう

――本番で気を付けることはありますか?

木原:
何よりも重要なのは、明るい光を見ないこと。先程ご紹介した赤いライトを駆使して、スマートフォンはできるだけ見ないように、鞄などにしまっておきましょう。観測場所の近くに自販機や街灯などがある場合は、背を向けて反対側の空を見るようにしたり、明るい光を手で遮って空を見上げたりするだけでも見え方は違うものです。
星空は、目が暗さに慣れてから、だんだんはっきり見えてくるものなので、焦らずのんびり空を見上げるようにしてくださいね。

――おすすめの観測スタイルは?

木原:
例えば、屋外で流れ星を見るというテーマの場合は、いつ、どのタイミングで飛ぶかがわからないので、地面にシートを敷き、寝っ転がって空全体を見るといいですね。
ちなみに、たくさんの流れ星が飛ぶ流星群である「しぶんぎ座流星群」「ペルセウス座流星群」「ふたご座流星群」は、三大流星群と呼ばれています。毎年だいたい同じ時期に見ることができて、数日間楽しめますよ。

<三大流星群>
・しぶんぎ座流星群 (1月)
一年の始まりを飾るしぶんぎ座流星群は、1時間あたり20~50個程度出現します。真夜中から空が白み始めるまでが観測しやすい時間帯です。

・ペルセウス座流星群 (8月)
ペルセウス座流星群 は、極大の時期が例年お盆の直前ですので、多くの方が見やすいでしょう。場所によっては、1時間あたりに見られる予想流星数は、40個程度。午後9~10時頃から見え始め、真夜中から空が白み始めるまで観察しやすい時間帯が続きます。

・ふたご座流星群(12月)
ふたご座流星群は、毎年ほぼ一定して、たくさんの流星を見ることができます。1時間あたりに見られる予想流星数は45個程度。夕方から明け方まで流れ星は見られますが、午後9時頃が観察しやすい好条件といわれています。

なお、「満天の星を見たい」「天の川が見たい」というときも、特別なことはしなくて大丈夫です。流れ星を見るときと同じように、寝転がって暗闇に目が慣れるのを待ちながら、ゆっくり星空を眺めましょう。
自宅のベランダなどから天体観測をする場合も、街頭やネオンといった光を遮るようにし、できるだけ低い視線で、寝っ転がったり、低い椅子に座ったりして見るといいですよ。

天体観測をきっかけに、全国の美しい星空スポットを訪れてみてほしい

――ありがとうございました。最後に、木原さんおすすめの星空スポットを教えてください。

木原:
私が最初に「空がこんなに近いなんて…!」と感動したのは、愛知県の茶臼山の近くの広い草原で天の川を見たときでした。北海道の真ん中あたりにある芦別市や名寄市、沖縄県の離島なども、周りに人家がない暗い場所が多く、空に手が届きそうな感覚を味わえると思います。
国内屈指の大望遠鏡を備えた公開天文台がある岡山県井原市や、「宇宙県」として宇宙に関わるさまざまな活動をしている長野県などにもぜひ足を運んでみていただきたいですね。

星空をきっかけに行ったことのない場所に行き、その地域にしかない観光名所、おいしい物、素敵な景色に出合って、その地域を好きになれるのも天体観測の魅力です。ぜひ、日本全国のさまざまな場所で星空を楽しんでみてくださいね!

協力:宙ツーリズム推進協議会
撮影協力:宇宙ビジネス拠点 X-NIHONBASHI

<プロフィール>
木原美智子

広島県出身。愛知教育大学で天文学を学び、星空案内や自治体の星空案内人講座立ち上げのスタッフ、講師などを経験。現在は旅行会社に所属し、星空に関する観光プログラムの創出や地方創生への活用、人材育成などの事業に従事する。星空案内人、ビクセン星空アドバイザー、天文教育普及研究会(一般会員)、宙旅ナビゲーター®。

 

執筆者プロフィール

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