スポーツ嫌いでも、勝っても負けても皆が楽しい!ゆるスポーツの魅力

スポーツをしない、できない、苦手な人でも楽しめるという「ゆるスポーツ」。その開発と普及に取り組んでいるのが、一般社団法人世界ゆるスポーツ協会です。 これまでに生み出されてきたユニークな競技は、プレーをする人も観ている人も、思わず笑みがこぼれるものばかり。
今回は、世界ゆるスポーツ協会の活動内容と、より良い社会を目指すための「ゆる化」計画について、協会理事の萩原拓也さんに伺いました。

老若男女、障害者も健常者も、誰もが楽しめるスポーツ

――ゆるスポーツとはどんなスポーツですか?

萩原さん(以下、敬称略):

ゆるスポーツは、年齢や性別、運動神経、運動経験、障害の有無にかかわらず、誰もが楽しめるスポーツです。 そして、世界ゆるスポーツ協会は、オリジナルのゆるスポーツを開発し、その普及に取り組む団体です。
世の中には、ゆるスポーツに近い考え方のスポーツは数あれど、新しい競技を生み出すことをメインとしている団体は、おそらく世界で私たちだけではないでしょうか。 これまで誕生したゆるスポーツは約80競技で、そのうち53競技は、協会のウェブサイトでも公開しています(2020年3月現在)。

一般社団法人世界ゆるスポーツ協会の理事・萩原拓也さん。

――ゆるスポーツの開発には、どのような人が関わっているのですか?

萩原:

協会のメンバーは理事が8人で、そのほかに中心的なスタッフが10人ほど。さらに、ゆるスポーツをともに生み出すスポーツクリエイターと呼ばれるメンバーが、延べ200人ほどいます。
スポーツクリエイターは、普段は別の仕事をしている人や主婦、学生などさまざまで、開発するスポーツに合わせてメンバーをピックアップしています。 顔認証技術や、投影された映像と背景を同時に見ることができる特殊なガラススクリーンといった、最新技術を活用したゆるスポーツを、企業と共同開発することもあります。

競技に使うアイテムも細部までこだわって制作しているそう。写真は「ハンぎょボール」に使うブリのフィギュア。

――ゆるスポーツを考案するときに大切にしていることはありますか?

萩原:

まずは、「老若男女誰でも楽しめる」こと。それから「勝ったらうれしい、負けても楽しい」「心地良い疲労感がある」「見た目やルールが笑える」「社会課題を解決する」という、 5つのポイントを大切にしています。

――負けても楽しいというのはいいですね。

萩原:

ゆるスポーツでは、運動会などで時々見られる「皆で手をつないで、いっしょにゴール!」みたいなことはしません。
勝利の喜びはスポーツの醍醐味のひとつ。その上で、「負けたけれど笑いが起こった」「失敗したけれど場が盛り上がったので目立てた」といった、「負けても楽しい」と思える環境づくりを強く意識しています。

パワーやテクニックは必要なし!フェアな環境で逆転現象を起こす

――最初に誕生した競技は何ですか?

萩原:

「ハンドソープボール」という、手にハンドソープをつけてプレーするハンドボールから派生させた競技です。 ハンドボール元日本代表キャプテンの東俊介さんから来た、「ハンドボールをもっと普及させたい」というお話がきっかけです。
本来、ハンドボールはボールが滑らないよう、選手は手にテーピングをしたり松ヤニを付けたりします。しかし、「逆にめちゃくちゃ滑ったらどうなるだろう?」というところからアイディアが生まれたんです。

基本ルールはハンドボールと同じ。手にハンドソープを付けてプレーする「ハンドソープボール」。

――ほかに人気の競技はありますか?

萩原:

激しく動かすと泣き声がする、特殊なボールを使った「ベビーバスケ」が人気ですね。ボールを赤ちゃんに見立てて、優しく扱うことが基本です。 そのため、強く投げたり叩いたりすることはできませんし、ドリブルなんてもってのほか。そっとパスをつないで、ゆりかごのゴールにボールを入れると点が入ります。 途中でボールを泣かせたら、相手チームのボールになります。

――優しさが試されるんですね。

萩原:

優しさって、人によって基準がバラバラですよね。例えば、男女混合でスポーツを行う場合、男性に「女性がいるから、優しくね」といっても、 手加減することが優しさだと思う人もいれば、本気でぶつかるのが優しさだと思う人もいるでしょう。
「ベビーバスケ」のいいところは、優しさを定量化していることです。「激しいプレーでボールが泣き出す」という、誰が見てもわかる基準があるからこそ、 全員が安心できる環境になる。つまりそれが、フェアということだと思うんです。

ボールを赤ちゃんのように扱いながらバスケットボールをプレーする「ベビーバスケ」は、母性が試される競技。

――競技経験があることが、必ずしも有利とはいえませんね。

萩原:

「ベビーバスケ」の場合、むしろバスケットボールのプレー経験がある人のほうが、ボールをすぐに泣かせてしまうんです。経験者のピボット(片足を軸として固定したまま、もう一方の足を動かし、体を回転させたりボールを動かしたりするテクニック)って、ものすごくスピーディーだから、経験者にパスが渡った瞬間にボールが泣き出すことは多々あります(笑)。
ゆるスポーツでは、しばしばこのような逆転現象が起こります。私たちはそれを「楽しい下克上」と呼んでいます。

――楽しい下克上、素敵な言葉です。

萩原:

専用のイモムシウェアを着て下半身を固定し、ほふく前進でラグビーをする「イモムシラグビー」も、楽しい下克上が起こりやすい競技です。
この競技は、肢体が不自由な人たちと共同で開発しました。日常生活を車椅子で送る人の場合、外出時は車椅子ですが、家の中では這って移動することも多いそうなんです。 だから、這ったり転がったりするのが実はとても上手。そのため、「イモムシラグビー」では大活躍されています。

イモムシになりきってラグビーをプレーする「イモムシラグビー」。

――ここでも逆転現象が起こっていますね。

萩原:

私たちは、「ハンデ」という言葉が好きではありません。ハンデがあると、どうしても「ハンデがあったから勝った」「ハンデのせいで負けた」という思いが生まれてしまいます。
ゆるスポーツでは、逆転現象が起きやすくなる工夫をしているため、普段運動が苦手な人が活躍するシーンも、当たり前の光景です。

「スポーツ弱者を、世界からなくす」がコンセプト

――協会自体は、そもそもどのような経緯で生まれたのですか?

萩原:

世界ゆるスポーツ協会の発足は2015年。代表の澤田を中心に立ち上げました。私はスポーツを観るのもするのも好きですが、澤田はスポーツが苦手。 幼い頃からスポーツに関するいい思い出がないらしいです。おそらくこのような人はたくさんいるのではないでしょうか。
しかし、スポーツには良い効果がたくさんあります。定期的に体を動かすことは健康の維持や体力増進に寄与しますし、ストレス発散になったり、 仲間ができてコミュニケーションの幅が広がったり…。スポーツ観戦にも感動や興奮、おもしろさがありますよね。

協会立ち上げの頃、日本人の運動実施率に関する調査で、定期的にスポーツをしている成人が全体の3割程度という結果が出ていました。 スポーツをしない7割の人が、これらのメリットを享受できたら、きっと日本はもっと豊かになるはず。それなら、スポーツをしない人や苦手な人でも、「やりたい」と思えるスポーツを生み出そうと考えたのです。

――苦手な人でもできるスポーツが増えると楽しいですね。

萩原:

協会の最終目標は、「スポーツ弱者を、世界からなくす」こと。スポーツ弱者とは、お年寄りや障害のある人、小さい子供、子育て中の人、 そしてスポーツにネガティブなイメージを持っている人たちのことを指します。
スポーツ弱者には3つのハードルがあります。1つ目はスポーツが苦手、嫌いという精神的な問題。2つ目はスポーツをする場所がない、いっしょにやる仲間がいないという環境的な問題。 3つ目は高齢や障害といった身体的な問題です。この3つを、ゆる~くクリアできるのが、ゆるスポーツなんです。

考え方と捉え方を大切に「ゆる」を世界に広めたい

富山県氷見市と共同で開発した「ハンぎょボール」は、特産のブリとハンドボールが融合。

――ほかにも協会ではどんな活動をしていますか?

萩原:

年1回開催する「ゆるスポーツランド」と、2019年からはじまった「ご当地ゆるスポーツアワード」という2つの大会を主催しています。 また、自治体や商業施設、企業などから依頼をいただいてさまざまなイベントを実施しています。

――大会やイベント参加者の様子はいかがですか?

萩原:

ゆるスポーツでは、「みんながおもしろいと思ってくれる」ということを重視していて、各競技のロゴデザインやSNS映えにも気を配っています。 そのせいか、私たちのイベントは一般的なスポーツイベントとは異なり、男性より女性の参加者のほうが多いんですよ。
そして、その楽しさは「smile(スマイル)」ではなく「laugh(ラフ)」の笑いであってほしい。私が考える「smile」は、緊張をやわらげるための笑顔。 対して「laugh」は、感情の爆発ではないかと。「おもしろかった」「興奮した」と、お互いに気持ちが爆発するような楽しさを生み出していきたいですね。

――ゆるスポーツがこれから目指すものは何ですか?

萩原:

ゆるスポーツの各競技はあくまでもシンボル。私たちが広めたいのは「ゆる」という考え方です。
「ゆる」という言葉を英語に訳そうとすると、「fun(ファン)」「loose(ルーズ)」など、いろいろな単語が思い浮かびますが、私が一番しっくりくるのは「flexible(フレキシブル)」です。 視点や方法を変えることで、今までなかったものを生み出したり、環境をより良くしたりすることが「ゆる」ではないかと思っています。
この考え方を多くの人に知ってもらって、日本全国「ゆる化」を進めたいですね。

誰もが楽しめるスポーツ、それがゆるスポーツ!

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

萩原:

スポーツが苦手な人やスポーツ経験のない人にも「これだったら自分もできそう」と思えるような、魅力あるゆるスポーツを作っていきたいです。 そして、「ゆる」の考え方をもっと広げて、目指すのは「ゆる」の派生です。現在、「ゆるミュージック」という取り組みを行っていますが、例えば「ゆるムービー」でもいいし、 「ゆるスクール」「ゆるカンパニー」でもいい。「ゆる」の可能性をどんどん示していきたいと思います。
※2020年3月に取材を行いました

●取材協力
一般社団法人世界ゆるスポーツ協会
誰でも楽しめるゆるスポーツの開発と普及を目指すスポーツクリエイター集団。 主要メンバーには広告代理店勤務、広報職など多彩な顔ぶれがそろい、それぞれが得意分野を活かしながら協会運営を行っている。コンセプトは「スポーツ弱者を、世界からなくす」。

世界ゆるスポーツ協会
世界ゆるスポーツ協会(facebookページ)

 

執筆者プロフィール

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