母校の誇りを胸に聖地へ!元高校球児の本気の戦い、マスターズ甲子園

全力で追いかける白球の先にあるのは、憧れの夢舞台・阪神甲子園球場――
ただし、マスターズ甲子園では、グラウンドを駆け回るのは高校球児ではなく、「昔、高校球児だった」大人たちです。高校時代、青春のすべてを懸けた甲子園出場の夢に、今再び挑む元高校球児たちにお話を伺いました。

マスターズ甲子園とは?

マスターズ甲子園とは、全国の高校野球OB・OGが、世代、甲子園出場・非出場、そして元プロ・アマチュア等のキャリアすらも超えて、出身校別に結成した同窓会チームで甲子園球場を目指すものです。
出場資格は「高校球児だった」というただ一点のみ。各都道府県予選を勝ち抜いたチームが、毎年11月に甲子園球場で行われる本大会に出場することができます。

それぞれの高校時代の思い出を胸に、もう一度夢の舞台へ

(写真左から)東京都高校野球OB連盟の副会長の倉本直さん、同じく副会長の大舘正裕さん、会長の林茂智さん、副会長の田代政弘さん。

――まずは、皆さんの現在の姿と、どんな高校球児だったかを教えてください。

林さん(以下、敬称略):

私は、昭和54年(1979年)に都立立川高校を卒業しましたが、高校時代のチーム成績は都ベスト8でした。大学卒業後は外資系電気機器メーカーで社会人野球を続けたのちに転職し、現在は別の機器メーカーに勤務しています。現役では一度も甲子園に出場したことがありませんが、マスターズ甲子園では、2012年、2016年に甲子園に出場しました。

倉本さん(以下、敬称略):

私は、昭和60年(1985年)に日本体育大学荏原高校を卒業しました。社会人になってからは、営業一筋で今に至ります。母校は春の選抜で2度、夏に1度甲子園に出場していますが、私たちのときは出場が叶いませんでした。私自身もベンチ入りすることができず、スタンドで応援していたくやしい思い出があります。マスターズ甲子園には2014年に出場しました。

田代さん(以下、敬称略):

昭和60年(1985年)に國學院大學久我山高校を卒業しました。母校は6度甲子園に出場していますが、私が在校していた3年間はいわゆる「空白の3年間」で、都ベスト16止まりでした。大学卒業後に検事になり、今は弁護士をしています。
マスターズ甲子園では、2018年に初出場・初勝利を果たしました。母校にとってこれが甲子園初勝利。そして、OBの私たちが勝利した翌年、後輩たちが28年ぶりに夏の甲子園に出場し、強豪・前橋育英から現役初の1勝をもぎ取ってくれたのは、本当にうれしかったですね。

大舘さん(以下、敬称略):

昭和61年(1986年)に安田学園高校を卒業し、現在は医療法人の役員をしています。現役時代は、都ベスト16止まりでした。神宮球場で敗戦した記憶は今も鮮明で、神宮球場で行われるマスターズ甲子園の東京大会決勝には、感慨深いものがありました。マスターズ甲子園では、2011年、2013年に甲子園に出場しています。

――チームの年齢層は?

マスターズ甲子園では、世代を超えて互いの健闘を称え合う。

林:

下は卒業後間もない19歳から、上は78歳までいます。私たちのチームでは、背番号は入部順で決めているのですが、78歳の方が1番をつけており、2016年にマスターズ甲子園に出場した際は、代打で出場し、惜しくも勝ち越しスクイズは決めきれませんでしたが、場内を沸かせました。

田代:

20歳から60歳まで在籍していて、平均年齢でいうと40代後半でしょうか。年齢層はやや高めです。

大舘:

うちも平均年齢は同じくらいですよ。高校を卒業してすぐ加入してくれた後輩もいますが、40代後半が多く、一番上は61歳です。

倉本:

下は22歳から上は72歳くらいまでいます。うちの特徴は、私立ということもあってか、親子ともに元野球部というメンバーが多いこと。そろってマスターズ甲子園に出場した親子もいます。

目をキラキラさせながら、高校野球の話が止まらない皆さん。

独自のルールで、登録メンバー全員出場を目指す

――学生時代に果たせなかった夢に、大人になって本気で挑むというのは素敵ですね。甲子園に初出場されたときの思い出を聞かせてください。

大舘:

マスターズ甲子園には独自のルールがあります。3回までは34歳以下、4回以降は35歳以上の選手で試合を行い、投手は27歳以上・登板回数は計2イニングまで。9イニングまたは試合時間が1時間30分で打ち切りとし、延長戦は行いません。
監督、部長、コーチ、マネージャーを含め、29人から50人をベンチ登録する必要があるため、人数が多いチームはとにかくスピーディーに出番を交代しなければならないんです。できれば、チームの全員を試合に出場させたいので、牽制球やストライクの見逃しなんてもってのほか(笑)。基本は早打ちです。
でも、自分自身がバッターボックスに立ったときは感無量で、球場をじっくり見渡して甲子園を満喫しました。2度目の出場でヒットが打てて、最高の気分でしたよ。次に出場したら、ぜひ盗塁を狙いたいと思っています。

憧れの甲子園でヒットを打ってガッツポーズ!(大舘さん)

倉本:

2014年にマスターズ甲子園出場を果たしましたが、当時はチームのメンバーが多くて…。登録可能人数である50人を断腸の思いで決定しました。先輩や後輩にはどうしても言いづらくて、同期に涙を飲んでもらったのがつらかったですね。

田代:

私は監督を務めているのですが、2018年の初出場時は、全員を出してあげたいと思う一方で、自分も出たいという気持ちもあって(笑)。自分から「出場したい」というわけにもいかないので、出番が回ってくるのを祈るのみでした。幸い、外野を守る機会に恵まれて、そのまま投手として2イニングを投げ、最後はバッターボックスに立ってライト方向に良いあたりを飛ばすことができたのは良い思い出です。
そして、自分たちの甲子園初勝利の後に、現役の後輩たちが続いてくれたこと。高校球児にとって甲子園は、近くて遠い夢の舞台です。たとえマスターズであっても、「先輩たちが甲子園へ行った」という事実は、現役の彼らにとって甲子園が現実味のある目標に変わるきっかけになったのかもしれません。

林:

母校が甲子園に出るというのは、それが現役であってもマスターズであっても、高校野球に関わっていた人の心を揺さぶるものです。私たちが出場した2016年は、当時の吹奏楽部の仲間がボランティアで集まって、応援に来てくれました。甲子園は、球児にとってはもちろん、応援してくれる人たちにとっても大きな目標だったんだなということを実感しましたね。
マスターズ甲子園では、2人のうちいずれかが元高校球児であれば参加できる「甲子園キャッチボール」というイベントを通じて、甲子園に憧れていた人が一人でも多くグラウンドに立てるような工夫をしています。このキャッチボールを利用してプロポーズする人もいたりして、現役のときとはまた違う楽しみ方をしているなと感じますね。

青春は、若者だけのものじゃない!永遠の高校球児たちは気持ちも若い。

――試合後は、やっぱり「甲子園の砂」を持ち帰りましたか?

倉本:

勝負に敗れた球児たちが、泣きながら甲子園の砂を集めて持ち帰っているイメージがありますよね。ところがあの砂、実は持ち帰り禁止なんですよ。

林:

そうそう。だから、わざわざスライディングしてユニフォームに砂をつけたり、スパイクで踏みならしたりして靴裏につけて、なんとか持ち帰れるようにしましたね(笑)。

大人が本気で白球を追う、アンバランスなおもしろさ

――マスターズ甲子園の魅力は、どこにあると思われますか?

倉本:

都内の高校で野球をしていた者にとっては、甲子園はもちろん、神宮球場で都大会の決勝戦ができるということ自体、現役時代を彷彿とさせるすばらしい機会です。
社会人として責任ある立場にいて、思うように練習時間を取ることはできませんが、なんとか時間を見つけて体を鍛えているのを見ると、神宮球場を経て甲子園出場というプロセスに対する強い思い入れを感じますね。マスターズ甲子園では硬球を扱うという難しさもありますが、それもまたおもしろさなのではないでしょうか。

東京大会の決勝は神宮球場で行われる。試合後、選手で肩を組んで、全国高等学校野球選手権大会歌を熱唱する姿も。

田代:

硬球で練習できる球場はなかなかありませんから、本番で順応するのが難しいですよね。それでもみんな、自主的に素振りをするなどして、なんとか対応しようとしています。そういう影の努力を見ると、高校時代から続く甲子園に対する思いの強さを感じて、グッときますね。
高校時代に本気で夢を追いかけていた大人が、今も同じ夢を本気で追いかけている。その熱量が、マスターズ甲子園最大の魅力だと思いますよ。

大舘:

高校時代に真剣に野球をやっていて、今も野球を愛している人だけが集まっているというところがいいですよね。本当に野球が好きじゃないと、「もう一度甲子園を目指そう」と言われても響かないでしょう。母校のユニフォームを着て甲子園球場に立つという目標に共感して集まってくるのは、野球が大好きで、人生を楽しんでいる人ばかりです。

林:

高校時代と違うのは、大人の本気の遊びだということかもしれません。高校時代は野球にすべての時間と魂を注ぎ込んで甲子園を目指していたけれど、今はそうはいきません。それでも、いざグラウンドに立ったら、皆ガチンコなんです。
現役だった頃のように体は動かないけど、「一球入魂」の思いで、泥だらけになってひとつの白球を追いかける。足がもつれても転んでも走る。そのプレーぶりはちょっぴりユーモラスで、見ている人の心をくすぐりますが、同時にじわじわと感動もします。そのアンバランスな感じが、現役球児たちの甲子園とはまた違ったおもしろさを、マスターズ甲子園に与えてくれていると思います。

田代:

マスターズ甲子園独特のルールも、おもしろさを倍増させています。1時間30分という試合時間は、本当にあっという間。どのチームも登録したメンバー全員を出場させたいという気持ちがありますから、目まぐるしく選手が入れ替わります。甲子園の電光掲示板に自分の名前が出る、その瞬間を心待ちにしている人も多いのですが、出たと思ったらもう消えていたりする(笑)。そのスピーディーな展開の中でどう勝ちにいくか、監督の采配も見どころのひとつです。

――最後に、今後、マスターズ甲子園をどのように盛り上げていきたいですか?

林:

2019年の本大会では、あのPL学園OBチームが大阪府予選を勝ち進み、桑田真澄さんが登板して大変盛り上がりました。憧れの選手と甲子園で対戦できるかもしれないという事実に、グッときた元球児も多かったと思います。おかげさまで少しずつ認知度が上がってきているので、今後はもっと登録チームを増やしていきたいですね。
昨年から50歳以上のメンバーだけでシニアトーナメントも開始したので、生涯スポーツの要素をより高めていきたいとも思っています。

<プロフィール>
東京都高校野球OB連盟

全国の高校野球OB・OGが、世代、甲子園出場・非出場、元プロ・アマチュア等のキャリアの壁を超えて、出身校別に同窓会チームを結成して甲子園球場を目指す、「マスターズ甲子園」東京大会を運営。OB会の立ち上げもサポートする。加盟校は42都道府県、697校(2020年3月現在)。

マスターズ甲子園オフィシャルサイト
東京都高校野球OB連盟
©マスターズ甲子園大会事務局
※2020年3月に取材を行いました

 

執筆者プロフィール

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