気づいたら夢中に!ぬか漬けマイスター・大湯みほさんのぬか漬け愛
かつて、ぬか漬けといえば家で漬ける物であり、どの家にも「うちの味」を生み出すぬか床がありました。時代は流れ、管理の面倒やにおいなどでぬか漬けを漬ける家庭は激減。しかし、最近の発酵食品ブームやステイホームの影響で、再び人気が高まりつつあります。
ぬか漬けに興味を持つ人が増えていることを、「もう、本当にうれしくって」と目をキラキラさせて語るのは、ぬか漬けマイスターとして活躍する大湯みほさん。祖母から受け継いだぬか漬けに魅せられ、ついには仕事にしてしまった筋金入りのぬか漬け好きです。
「ぬか漬けをいっしょに楽しんでくれる『ぬかフレ』ができるのが最大の喜び」と話す大湯さんに、ぬか漬けへの深い愛を語っていただきました。
「ぬか漬けが好き」「やってみたい」そう感じてくれるのが何よりうれしい
――まずは、「ぬか漬けマイスター」としての活動について教えてください。
大湯さん:(以下、敬称略)
テレビやラジオなどのメディアでぬか漬けの魅力やレシピを紹介するほか、全国各地でぬか漬けのパワーを学んで実際にぬか床を作る「みほ先生のぬか漬けワークショップ」を開催しています。
親子向けならオリジナルのぬか漬けの歌や紙芝居で興味を持ってもらったり、企業向けの場合はぬか漬けの健康効果にフォーカスしたお勉強タイムを充実させたり、ワークショップの内容は参加者に合わせて変えています。
今の子供たちは泥遊びの経験が少ないので、ぬか漬けの感触を新鮮に感じて、おもしろがってくれる子も多いですね。参加してくださったお母様から、「野菜嫌いの子が、自分でぬか床に漬けた野菜は食べるんです」なんて話を伺うと、自分のことのように幸せな気持ちになります。
――ここ最近、ぬか漬けの栄養価や美容効果が注目されていますよね。
大湯:
この4〜5年で、特に注目が集まっている印象ですね。最近はワークショップに男性の参加者も増えて、興味を持ってくださる方の幅が広がってきたと感じます。ぬか漬けを好きになってくれる人、ぬか漬けを作ろうと思ってくれる人が増えるのはとてもうれしいこと。 個人的に、ぬか漬けをいっしょに作る友達を「ぬかフレ」と呼んでいますが、一人でも多くぬかフレができるといいなと思って活動しています。
一人暮らしを経て気づいた「ぬか漬けは私のソウルフード」
――ぬか漬けは、小さい頃から好きだったのですか?
大湯:
子供の頃から、食卓にはおばあちゃんの作るぬか漬けが毎日のように並んでいました。でも、実は全然好きじゃなかったんです(笑)。ぬか漬けって、子供心が踊るようなメニューじゃないし、私にとっては「いつもある物」で特別感がなかった。
それに、幼い頃、我が家はあまり裕福ではなくて、ご飯と味噌汁とぬか漬けみたいなシンプルなメニューが多かったんです。友達の家の夕ご飯の話がいつもうらやましくて、余計にぬか漬けが憎らしく思えました。22歳で上京するまで、ずっとそんな感じでしたね。
――まさか、ぬか漬けが嫌いだったとは思いませんでした…!
大湯:
もうトラウマレベルで、「ぬか漬けじゃない物が食べたい」っていつも思っていました。だから、上京して一人暮らしを始めたときは、「やっとぬか漬けから離れられた!」って晴れ晴れした気持ちだったんですよ。レシピ本を片手に、いろいろな料理を作りました。
でも、不思議なものですね。一人暮らしを続けるうちに、だんだんぬか漬けが恋しくなってきたんです。今思えば、幼い日をいっしょに過ごしたぬか漬けこそ、私のソウルフードだったんでしょう。ある日、ふと「ぬか漬けが食べたいなあ」と思ってスーパーで買ったんです。
――スーパーのぬか漬け、どうでした?
大湯:
おいしくないわけじゃないけど、やっぱりこれじゃないというか…。味もそうですが、何より私にとってぬか漬けは「作るもの」で、「買うもの」じゃなかったんですね。でも、ぬか漬けが出るたびに嫌悪感をあらわにしていた手前、おばあちゃんや親にぬか漬けが食べたいとは言いづらくて。迷っているうちに、祖母が亡くなってしまったんです。 母はぬか漬けをやらないので、私がおばあちゃんのぬか床を引き継ぐことになりました。
自分が楽しんでいるから、人に楽しさを伝えられる
――おばあちゃんのぬか床が、今につながる第一歩なのですね。
大湯:
当時は、お笑い芸人として活動していたので、そのかたわらでぬか漬けマイスターの資格を取り、ぬかやぬか漬けのことを勉強しました。受け継いだからには守らなければという一心でしたね。
基礎的なことがある程度わかってからは、身近な食材をどんどんぬか漬けにして、「今日はこれを漬けてみました!」とブログに上げたんです。野菜はもちろん、お肉や魚、ナッツやクルミとか…。チョコレートを漬けたら溶けてなくなったり、ミニトマトはおいしいけど皮が破れてどろどろになったりと、たくさん失敗もしました(笑)。
でも、失敗も含めて実験のようでおもしろくて、気づいたらぬか漬けに夢中。もっとぬか漬けを極めてみたいと思い始めた頃、ブログを見た編集者さんから書籍化の提案があったのをきっかけに、本業としてぬか漬けに取り組むことを決めました。
――ぬか漬けが趣味から仕事になって、何か変化はありましたか?
大湯:
最初のうちは、「人に伝えるんだからちゃんとやらなきゃ!」と、プレッシャーを感じていました。でも、自分が楽しんでいないのに、人に楽しさを伝えることなんてできませんよね。せっかくタレントやお笑い芸人の経験があるので、「自分のバックボーンを活かして、ぬか漬けのおもしろさを伝えていこう」と気持ちを切り替えてから、またぬか漬けを楽しめるようになりました。
――野菜以外のいろいろな食材がぬか漬けにできるというだけで、とてもワクワクします。おすすめの組み合わせはありますか?
大湯:
ナッツやクルミは、ぬかに漬けるとシャキシャキした食感になっておいしいですよ!豆腐もチーズのような風味が出て、お酒のおつまみにぴったりです。あとは、フルーツもおすすめで、ジャムのような感じになります。あまり熟していない物を選んで、タッパーやジッパーつきの保存袋にぬか床を小分けにして、1回で使いきってくださいね。
においがつきやすいお肉やお魚も、野菜とは別のぬか床で漬けましょう。
変わり種では、うどんがおすすめです。うどんをぬかに漬けておくと、特に調味料を使わなくても、家にある野菜や肉と炒め合わせるだけで、おいしい焼きうどんができますよ。ぬか漬けにした食材そのものを楽しむだけでなく、時短調理にも役立つんです。
手のひらが違えばぬかの味も違う!我が子のようにぬか床を愛してほしい
――大湯さんにとって、ぬか漬けの一番の魅力は何でしょう。
大湯:
ぬか床って、元が同じでも、床分けすると別の味になっていくんです。なぜかというと、混ぜる人の手が違うから。もちろん漬ける食材や、ぬか床を置いておく環境も影響しますが、手のひらの常在菌の力がとても大きいんです。ぬか床に存在している乳酸菌と手のひらの常在菌が共存することで、ぬか漬け独特の風味が増していきます。
私も新しくぬか漬けを始める方に床分けしたり、ぬかフレとぬか床を交換したりします。元はひとつのぬか床が、それぞれの家庭に落ち着いて、その家の子供のように個性を発揮していく様子を想像するたびにワクワクします。ぜひ、我が子や恋人に話しかけるような気持ちで、ぬか床にも話しかけてほしいですね。
――最後に、これからやってみたいことを教えてください。
大湯:
日本はもちろん、海外にもぬか漬けを広めていきたいと思っています。海外ではぬか漬けの存在はあまり知られていませんが、実際に食べてもらうとすごく評判がいいんですよ。特に、アジア圏ではとても喜ばれます。
「NUKADUKE」は、日本が世界に誇れる大切な文化。きっかけは何であれ、ぬか漬けのおいしさや奥深さ、おもしろさを共有してくれるぬかフレを、世界中に広げていけたらいいですね。
<プロフィール>
大湯みほ(おおゆ みほ)
日本ぬか漬け協会・ぬか漬けマイスター。ぬか漬けタレントとして活動しながら、全国で「みほ先生のぬか漬けワークショップ」を開催中。著書に「アップルパイン・みほのカラダいきいき! におわないぬか漬けレシピ」(スペースシャワーネットワーク)がある。
●取材協力
Cafe アエル
住所 | 東京都中央区勝どき2-16-6 |
営業時間 | 平日11:00~20:00、土曜12:00~18:00 |
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