ブロック玩具アーティストが語る、物づくりへのこだわり
昔から子供の知育玩具として親しまれているLEGO®ブロック。それらを使って、アートと呼べるような作品を作る大人たちがいます。今回、お話を伺った、さいとうよしかずさんもその一人。
ブロック玩具アーティストとして、大小さまざまな作品を作り続けるさいとうさんに、物づくりへのこだわりとLEGOブック®の魅力を教えていただきました。
さいとうさんのオリジナル作品「名古屋城」。石垣まですべて、LEGO®ブロックで再現。すごい!
物づくりに対するこだわりの原点とは?
──LEGO®ブロックに出会う前は、プラモデルづくりに熱中していたそうですが、さいとうさんにとって物づくりの原点は、どんなことだと思われますか?
さいとうさん(以下、敬称略):
小さい頃から、特別何かを作るのが好きだったというわけではなく、プラレールや怪獣のソフトビニール人形で遊ぶような普通の子供でしたね。ただ、図工の時間は好きで、小学校3、4年生くらいのとき、夏休みの宿題がどうしても作りたい形にできなくて泣いた記憶があります。 そういう意味では、自分が作りたいと思う理想の形に対するこだわりは、昔から強いほうなのかもしれません。それが、プラモデルづくりで、より前面に出ていったのかなと思います。
──プラモデルづくりにのめり込んだのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
さいとう:
子供の頃、近所にあった模型店に、「月刊ホビージャパン」という雑誌のライターの方が作ったプラモデルが飾ってあったんです。それは、当然のことながら小学生の僕が作る物とは比べ物にならないくらいの完成度なわけです。それで、「どんな風に作っているんだろう?」と思って、学校から帰るとすぐにそのお店に行って、ショーウインドー越しにずっと眺めていました。
多分、自分もそこに到達したいって気持ちがあったんでしょうね。子供だし、技術もないから、うまく作れなくても仕方がないんですけど、プラモデルでこんなにすごい物が作れる可能性があることを知ったのは大きかったと思います。
ブロック玩具の雰囲気が少しでも伝わるようにと、自宅からアイテムを持ってきてくれたさいとうさん。ちなみに、Tシャツの絵柄もLEGO®ブロックでした!
──その後、大人になるまでずっとプラモデルづくりは続けられていたのでしょうか?
さいとう:
スーパーカー消しゴムやテレビゲームといった、その時々で流行った遊びにも夢中になりましたよ。学生時代は映画ばかり観て過ごす時期もありましたし。
でも、スーパーカー消しゴムをよく走るように改造したり、香港映画を好きになったら何度も香港に足を運んだりと、好きなものに対する探究心は相変わらずでしたね。テレビゲームにしても、気づいたらゲーム雑誌で原稿書いたり、ゲームの攻略本を作ったりしていました。
転職先で待っていたLEGO®ブロックとの出会い
──さいとうさんがLEGO®ブロックに興味を持ったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
さいとう:
大人になってから再びプラモデルに熱中していたのですが、子供が生まれるにあたり、塗料に使われているシンナーや、プラスチックを削るときに使うカッターなどがあるのは、あまり良くないかと思ってやめることにしました。
また、同時期に転職をしたんですけど、新しい会社にLEGO®ブロック好きな同僚がいて、「プラモデルを作れないならLEGO®ブロックはどう?」とすすめられたのがきっかけでした。でも実は当初、LEGO®ブロックに対してあまりいいイメージは持っていなかったんです。
自分の顔を再現したLEGO®ブロック。右のLEGO®ブロックは、ストラップをつけて首から下げられるようになっている。イベントなどで、話のきっかけづくりに役立つのだそう。
──それはどうしてだったのでしょうか?
さいとう:
それまで僕が見ていたLEGO®ブロックで作られた物って、何かのキャラクターだとしても穴だらけのブロックで組んだ、全然似てない物という印象で(笑)。だから、まったく食指が動かなかったのですが、同僚曰く、「それは違う」と。そこで見せてもらったのが、
「スター・ウォーズ」のシーンを再現したオリジナル作品が掲載されたウェブサイトで、そのあまりの完成度に驚いて、興味がわいたんです。
元々、僕がプラモデルに夢中になっていたのは、自分なりの改造を加えて、いかにそのメカに似せて作るかがおもしろかったから。それからは、LEGO®ブロックで作りたい物を作るため、パーツを収集し、作品づくりの日々が始まりました。
──作品を作り始めて、最初に注目を集めたのがLEGO®ブロックで作ったお寿司だったそうですね。
さいとう:
お寿司は、LEGO®ブロックの専門店「クリックブリック」が主催するコンテストに応募し、入賞することができた作品です。それまでは、オリジナルでロボットを作っていたのですが、そこでは当然のことながら、ロボットを作っている人たちの中で、かっこいいかかっこ良くないかの評価になります。
でも、お寿司だったり、有名な建築物だったり、知っている人が多い物であれば、似ているかどうかといった点でも評価してもらえるんですよね。お寿司が僕にとって初めての入賞作なのですが、それ以来、再現系作品も作るようになりました。
コンテストに入賞したお寿司。見ていたらお寿司が食べたくなるほど精巧な作りです。
──作品に遊び心を加えるのが、さいとうさんのこだわりなのかなと思いました。
さいとう:
もちろん、一番重視しているのは再現度です。ですが、LEGO®ブロックのサイズ的な問題もあって…。例えば、「本物だと窓が4つあるのに3つしか入れられない」といった理由で、リアルに作れないことがあります。ある程度デフォルメはしながらも、どれだけ本物に近付けるかが大切で、そこにオリジナリティを追求することはありません。
ただ、ちょっとしたお楽しみを入れたいという気持ちはあります。例えば、立教大学のジオラマを作ったときは、掲示板にこだわってみたり、校門にある木の下にバットを持って素振りをする長嶋茂雄さんをイメージした人形のブロックを置いてみたり(笑)。また、東名高速道路のジオラマでは、パーキングエリアにアイスを落としちゃった女の子を忍ばせたりもしました。
作品を観ている人が、「あ、これ!」って思うような物があったら楽しいなと思うんです。すべての作品に入れられるわけではないですが、可能な限りそういう遊びを入れたいと思っています。
ノートルダム大聖堂への思い入れとこだわり
──作品の中には、名古屋城やノートルダム大聖堂のほか、建物だけではなく周辺の様子まで再現するジオラマなど、大きなサイズになる物もあります。それらは、どのように制作しているのでしょうか。
さいとう:
ブロック玩具アーティストの中には、作る前にパソコンで設計図を描いて、どのLEGO®ブロックがどこに何個必要かを計算する人もいますが、僕はすべて頭の中で考えています。
ですから、どんなパーツがあるのかを覚えておくことが一番大切ですね。そうすれば、例えばノートルダム大聖堂のアーチ部分だったら、このパーツとこのパーツを組み合わせたらできそうだなとイメージすることができますから。
さいとうさんによる、LEGO®ブロックだけで再現したノートルダム大聖堂。息を飲むほどの美しさです。
──完全にイメージができたところで制作に着手するのでしょうか?
さいとう:
このままだと締切りに間に合わないぞってところまでは、ひたすらいろいろなパターンを考えますね。というのも、工程も含めて正解があるものではないので、「本当にこれでいいのか?」という気持ちが常にあるんです。
実際、途中でやっぱりこっちのやり方のほうがいいとなって、一度作った物を壊して作り直すことも多々あります。そこがLEGO®ブロックで作品を作る醍醐味だと思いますね。
──数え切れないほどたくさんの作品を作られている中で、さいとうさんにとって、特に思い入れのある作品は何でしょうか?
さいとう:
現時点では、「PIECE OF PEACE 『レゴ®ブロック』で作った世界遺産展 PART-4」のために作ったノートルダム大聖堂ですかね。それまで作っていた物は、名古屋城なら名古屋を訪れた人、立教大学のジオラマなら立教大学を訪れた人など、基本的にその場所に行かないと見てもらえないことが多かったのですが、世界遺産展は全国各地を巡っているので、たくさんの方に自分の作品を見ていただくことができる。 なので、自分が持っている部品と時間でできる物なら、会場に観に来た人に「これが一番いい!」と言ってもらえるような作品を作りたいと思いました。
──制作期間はどのくらいかけられたのでしょうか?
さいとう:
2ヵ月ですね。細部までこだわっていくと、やはり時間はかかってしまうんです。例えば、ノートルダム大聖堂にはガーゴイルがたくさんついているんですけど、それを再現するために小さな丸いLEGO®ブロックを貼ればそう見えるかと思ったら、似ても似つかなくて…。
「どうしよう?」となったとき、カエルのパーツがそれっぽく見えるんじゃないかということでつけてみました。自分では結構うまく表現することができたんじゃないかと思っています。
あとは、長い歴史を持つノートルダム大聖堂の壁の再現には、ちょっと苦労しましたね。最初は経年による石壁の色の違いも入れようと思って、色の異なるLEGO®ブロックを交ぜたりしたのですが、なんだか汚い感じになってしまって。
結局、同じ色のブロックでも、生産時期が違うと成形色に微妙な違いがありますので、それらを交ぜることで実物に近いニュアンスを出しています。
さいとうさんの作業場の一角。どこに何があるかわかるように、引き出しにきれいに収納されている。セット販売されている商品も、パーツごとに分解して保存しているとのこと。
大人になってからでもできるLEGO®ブロックの楽しみ方
──現在は、LEGO®ブロックを使ってさまざまな作品を作るブロック玩具アーティストとしての活動に加え、LEGO®ブロック関連の著書も多く出されています。さいとうさんは、LEGO®ブロックのどんなところに一番魅力を感じていますか?
さいとう:
一番は、誰にでもできること。そこに尽きると思っています。僕はたまたまプラモデルを作れましたけど、絵は描けないし、陶芸もできません。誰しも、自分にできないことってあると思うんです。特に、物を作る場合、そのほとんどは作るための技術が必要なんですよね。 でも、LEGO®ブロックは、つなげるだけだから誰にでもできます。もちろん、良い物を作れるかどうかはセンスになってきますけど、それは絵だって陶芸だって同じです。だからこそ、技術が必要ないっていうのは大きなアドバンテージだと思います。しかも、LEGO®ブロックさえあれば、あとは特別な道具を買う必要もありません。 そこが魅力というか、挑戦する人を選ばないフェアなジャンルなのかなって思います。
──さいとうさんのお話を聞いて、LEGO®ブロックでの作品づくりに興味を持った人もいると思います。そんなとき、まずはどこから始めればいいのか、アドバイスをいただけますか?
さいとう:
僕がいつもおすすめするのは、「LEGO クリエイター」シリーズの家ですね。これは、家や部屋を作れるセットになっていて、パーツを自分でそろえなくていいので、この商品から入るといいと思います。
まずは部屋を作ってみて、その後にセットをもう1つ買って部屋を広くしたり、2階建ての家にしてみたりするなど、少しずつチャレンジしていくことができますよ。
さいとうさんが制作された「アイデアをカタチにする! ブロック玩具ビルダーバイブル 組み立ての基本からオリジナル作品づくりまで」(翔泳社)。ブロック玩具で作品づくりを始めたい方におすすめです(ブロック玩具アーティストによる制作のため、LEGO社とは無関係です)。
──LEGO®ブロックというと、バラバラのパーツから自分が好きな物を作る印象があります。それにもかかわらず、キットをおすすめするのには何か理由があるのでしょうか?
さいとう:
いきなり作るのって、やはり難しいんです。イベントなどでLEGO®ブロックをたくさん用意して、「好きな物を作ってください」と言っても作れない方は多いですし、実は僕も作れません(笑)。でも、家だったら、基本は四角くて、少なくとも床と壁とドアと屋根をつければいいし、何より皆さんイメージしやすいと思うんですよね。 自分が今住んでいる部屋でも、アニメとかで見た部屋でも、イメージできるものがあれば形にしやすいので。そうやって、1回完成形まで作ってみてから、ちょっとずつ自分なりにカスタマイズしていくと、どんどんおもしろくなってくると思います。
──LEGO®ブロックは、すぐに組み立て直せるところもいいですね。
さいとう:
LEGO®ブロックは接着剤でくっつけているわけではないので、壊れてもまた組み立て直せば大丈夫なところも魅力のひとつですね。ちょっと納得がいかない部分があっても、そこに合う新しいパーツが出たら、それと交換することで、どんどん自分好みの形に近付けていくことができるのも、こだわり心を刺激してくれます。
一つひとつのパーツは小さくても、そこに秘められた可能性は無限大。そんなLEGO®ブロックの魅力をぜひ体感してみてほしいですね。
※2020年9月に取材しました。
<プロフィール>
さいとう よしかず
東京都生まれ。フリーの編集者・ライターとして活躍するかたわら、趣味が高じてLEGO®ブロックを使ったアーティスト活動を行う。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「レゴブロック王選手権」で準優勝したほか、ブロック玩具のノウハウ書籍を4冊出版。LEGO本社公認「LEGOアンバサダー七期生」に認定。 現在は、依頼されたモデル制作を行い、LEGO®ブロックの啓蒙活動を行っている。
アレゴレNEXT:http://alegoremagazine.com/
Twitter:https://twitter.com/akiba05
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