夫婦ユニット「旅音」に聞く、コロナ後の海外旅行どこへ行く?
長引くコロナ禍で、思うように出歩けない日々。元々、旅行好きの人はもちろん、そうでない人も、一度は「どこか行きたいなぁ…」とつぶやいた日があったのではないでしょうか。
自由に旅行ができる日が来たら、どこへ行き、何をしよう――来る日に向けて、旅行の計画を立てる人も増えています。
そこで、これまで40ヵ国以上を旅してきたカメラマン(夫・林澄里さん)、ライター(妻・林加奈子さん)のご夫婦ユニット「旅音(tabioto)」さんに、おすすめの旅行先をガイドしていただきました。
できることを見つけて楽しんだ自粛期間
――お二人が最後に海外に行ったのはいつですか?
林加奈子さん(以下、敬称略):
世界的なパンデミックが起こる直前の2020年1月に、タイとラオスに行きました。それからはまったく行けていないですね。息子(チビオトくん)が生まれてからも年に1回は旅に出ていたので、こんなに遠出していないのは久しぶりです。
――これまでのように海外に行けなくなってから、どんな風に過ごされていたのでしょう。
林澄里さん(以下、敬称略):
渡航歴の関係で長くできずにいた献血をしました。コロナ禍で献血に行く人が減り、安定的に血液を確保することが難しくなっているというニュースを見たとき、「あっ、今なら」と思って。
――できないことが増えた半面、できることも増えたわけですね。ほかに、生活に変化はありましたか?
林澄里:
外出自粛でこれまでと違う日常を過ごさざるをえなかった頃、ただ思い悩んで過ごすのはつまらないと思って、鎌倉の自宅の庭に亜熱帯の植物を植えたんです。その一角を見ると、自宅にいながら少しだけ旅気分を味わうことができる。家庭菜園の野菜や植物の世話をしながら、空想の旅を楽しみました。
そうやって身近な自然にふれるうちに、旅の醍醐味である「未知との遭遇」を、もっと身近なところで楽しめるのではないかとも思い始めて。マクロレンズを購入し、自宅の庭や近くの海、山などの写真を「虫の視点」で撮影しました。これまで素通りしていた場所にもまだ知らない鎌倉が潜んでいることがわかって、とてもおもしろかったです。
特に、倒木の内側にキノコがびっしり生えて共存している様子は印象的でしたね。
――身近な自然には、意外と新鮮な驚きが隠れていますよね。でも、そろそろ海外に行きたいのでは…?
林澄里:
昔のように旅ができるようになるまでには、まだ時間がかかると思います。気持ちの面でも、「(旅行先に)申し訳ないな」「行っていいのかな」とマイナスの感情を抱きながら旅の準備をしたくない。やっぱり、荷物をかばんに詰め込む段階からワクワクしていたいじゃないですか。
とはいえ、海外のスケール感は身近では味わえないもの。早く自由に旅に出られる日が来るといいですね。
――本当にそうですね!では、そんな日が早く来ることを願って、これまで旅した中からおすすめの国を教えてください。
林澄里:
どの国も魅力的なのですが、厳選してモロッコ、ギリシャのパピンゴ、インド、タイ、ブラジルの5つをおすすめしたいと思います。
子供ウェルカム!異国情緒あふれる優しい国「モロッコ」
――モロッコには、チビオトくんを連れて行かれたんですよね。
林澄里:
大学時代にスペインから日帰りで訪れた際、これまで訪れたことのあるアジアでもない、先進国でもない、独特の異国情緒に衝撃を受けました。先進国から開発途上国へ、旅先をシフトするきっかけになった国でもあり、いつかまた行きたいとずっと思っていたんです。
チビオトとの5度目の海外にして、やっと再訪が叶いました。
――インドとエジプトと並んで「世界三大うざい国」と呼ばれているとか…。
林加奈子:
人との距離が近く、客引きやチップ要求が強引な印象のせいか、そう呼ばれることもありますますね。確かに街を歩くと物売りをはじめ、いろいろな人から声がかかるので、「うざい」と感じるかも…。
でも、そのある種のなれなれしさが、子連れにはとても優しく感じられるんですよ。子供を見ると誰でも親しみを込めて話しかけてくれるし、構ってくれるんです。電車に乗れば乗客が遊び相手になってくれるし、商店では「どれでも好きなのを選んで」と、お菓子をもらいました。
――それは子連れで旅しやすいですね。
林澄里:
困っている人や、外国から来た人を放っておけない国民性なんでしょうね。小さいうちは子供の記憶にあまり残らないとは思いますが、「なんか楽しかった」「うれしいことがあった」という気持ちが心に残って、次の旅につながっていくといいなと思います。
知る人ぞ知る秘境「ギリシャ・パピンゴ」
――ギリシャといえば、古代遺跡やエーゲ海を思い浮かべますが、「パピンゴ」?
林澄里:
今まで行ったことがないエリアで、大人も子供も楽しめそうなところを探して浮かんだのがギリシャでした。どうせいくなら、一般的なイメージとは少し違うギリシャも見たいなと思って、壮大な山々と石造りの家があるらしいパピンゴを目的地にしたんです。
――どのあたりにある村なんでしょう。
林加奈子:
アテネから車で8時間、アルバニアとの国境にあります。そこに向かうバスは1週間に1本。しかも、住民優先なので、必ず乗れる保証はありません。11年ぶりにレンタカーを借りて、海外の道を走りました。
日本で運転するのは月に1回くらいなので、緊張しましたね。ラウンドアバウト(環状交差点)でクラクションを鳴らされて焦りつつ、ヘアピンカーブをいくつも越えてパピンゴにたどり着きました。
――観光客は多いのですか?
林澄里:
出迎えてくれた宿の主人が「Welcome to end of the road!」と言って手を差し伸べてくれるほどの場所ですが、ヨーロッパやギリシャ国内からは観光客がたくさんやって来るそうです。
ただ、アジア人は珍しいらしく、宿の主人には「どうやってここを知ったの?」と聞かれました。
――どんなところが魅力ですか?
林澄里:
石畳の道、石造りの家、その向こうには巨大な山。外国の絵本に登場するような山間の村を満喫できます。森の中には岩に囲まれた天然のプールがあって、バカンスシーズンにはたくさんの人で賑わっていますよ。知る人ぞ知る場所を旅したい人におすすめです。
行く場所によってまったく違う文化を楽しめる「インド」
――インドはパワーを感じる国ですよね。
林加奈子:
街も、人も、活気に満ちていますよね。どんどん話しかけてくるし、騒がしいし…。ストレスに体が耐えきれずに腹痛を起こしたり、ガンジス川で泳ぐ人を見ていただけなのに顔が腫れたりしたこともあるんですが(笑)、飽きない国だと思います。
――インドはどこがおすすめですか?
林澄里:
インドは、場所によってまったく文化が違うんです。ガンジス川のあるバラナシなどは、皆さんが想像されるインドの雰囲気ですが、北インドのブーンディは、パワフルなインド中心部とはまったく違って、素朴で優しい人が多い街。また、パキスタンにほど近いインド西部のカッチ湿原は景色も広大で、360°地平線までずっと湿原が広がっていました。空と大地しかないのに圧倒される、不思議な経験でしたね。
――そんな場所があるんですね…!
林澄里:
標高3,000mを越える山岳・高原地帯にあるラダック地方も、大麦中心の食事やチベット仏教など、独特の文化が息付いています。ラダック地方も、おおらかで、穏やかな国民性ですね。
あとは、南インドの「クリシュナのバターボール」もおもしろかったです。絶妙なバランスで丘の斜面に静止している巨大な岩なのですが、世界遺産に指定されているにもかかわらず、みんな岩が作る日陰で勝手気ままに過ごしていました。
程良く都会で過ごしやすい「タイ」
――タイは、インドやモロッコに比べるとハードルが低い気がします。
林加奈子:
都会の雰囲気とバカンスの雰囲気が程良く入り混じって、旅に求めているものがうまく収まっている感じがする国。初心者からベテランまで、いろいろな楽しみ方ができると思います。私たちも、一人でも家族でも、10回近くは行きました。
私たちは冬に行くことが多いのですが、過ごしやすい時期なので子連れにはベストシーズンだと思います。
――タイに行ったら、ここは行っておくべきという場所はありますか。
林澄里:
タイとラオスの国境付近にある雲海の名所「プーチーファー」ですね。タイ人のあいだではよく知られていますが、ガイドブックにはほとんど載っていないので、外国人観光客はあまりいません。私たちも、友人から情報をもらって見に行きました。
──チビオトくんはどんなところを楽しんでいましたか?
林加奈子:
鉄道が走るすぐ脇で開かれている市場は、とても楽しんでいました。ほぼ線路上に品物を置いて商売をしているんですが、列車の到着を察知するとすごい速さで商品をしまうんです。列車が通り過ぎると、何事もなかったかのようにまた商品を並べ始める(笑)。
その様子は大人が見てもおもしろいものでしたが、チビオトは目と鼻の先を列車が通っていくことに興奮していました。
なんで?と言いたくなるほど人が親切「ブラジル」
──ブラジルはあまり治安が良くないと聞いたことがありますが、どうですか?
林澄里:
確かに、地域によっては治安が良いとはいえないですね。でも、一般的な危険察知能力があれば、危険な場所を見分けることはできると思います。旅慣れている人にはおすすめの国です。
私たちは建築も好きなので、リオデジャネイロ生まれの世界的な建築家、オスカー・ニーマイヤーの建築物を見に行きました。
フォルダレーザから向かった砂丘のある街、ジェリコアコアラも良かったですね。街のすぐ脇に砂丘があって、小さい街なのに何もしなくても満足できるのんびりした場所でした。
──ブラジルの人は優しいですか?
林加奈子:
ちょっと意外かもしれませんが、すごく親切です。路上で地図を開いていたらバスが止まって、運転手が「どこへ行くんだ」と声をかけてくれたり、ジャズクラブのようなところで隣に座った見知らぬ紳士がサッカー観戦に連れて行ってくれたり…。
どうしてそこまでしてくれるのかわからない、「なんで?」と言いたくなるような優しさがブラジル人の魅力であり、おもしろさですね。
──まだまだ制限の多い日々ですが、世界地図を見ながら未来の旅行計画を立てたくなりました。
林澄里:
もう少し我慢の日々が続くかもしれませんが、変化の過程を楽しみながら、少しずつ行動範囲を広げていきたいですね!
<プロフィール>
旅音(たびおと)
「年に1回は家族で海外へ!」という目標を心に抱きながら、カメラマン(夫)、ライター(妻)として雑誌への寄稿、イベント出演といった、旅にまつわるさまざまな仕事を手掛ける。著書に「中南米スイッチ」(新紀元社)、「インドホリック インド一周一四二日間」(スペースシャワーネットワーク)などがある。
執筆者プロフィール