フランス人ソムリエに聞く!日本茶の新たな魅力と楽しみ方
気分がくつろいだり、仕事に向けて気分を切り替えたりできる日本茶。最近では、テレワークが普及したことなどによって自宅で過ごす時間が増え、自分で日本茶を入れる機会も多くなってきました。
多くの日本人がまだ気付いていない日本茶の新たな魅力について、人形町で日本茶専門店「おちゃらか」を営むフランス出身のステファン・ダントンさんに聞きました。
種類が違うお茶も、同じ木の葉から作られる
日本茶は、日本人の生活に古くから根付いています。日本茶とは日本で作られたお茶のことですが、主に緑茶を指すことが一般的です。お茶には緑茶以外にも、紅茶や烏龍茶など、さまざまな種類がありますが、実は元は同じチャノキの葉から作られています。そもそもお茶は、どのように作られているのでしょうか。
「お茶は、その製法によって、白茶・緑茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶の6つに分けられます。それぞれの呼び名は、お茶を入れたときの色である水色(すいしょく)に由来します。白茶、黄茶、青茶、黒茶は中国でよく見られるお茶です。烏龍茶は青茶、プーアル茶は黒茶に分類されます。
緑茶には、日本の緑茶と中国の緑茶の2種類があります。緑茶は茶葉を摘んですぐに加熱し、ほかのお茶のように茶葉を発酵させずに作るものです。この加熱処理として茶葉を釜で炒るのが中国の緑茶です。対して、ほとんどの日本の緑茶は、茶葉を蒸してから揉んで仕上げます。この独自の工程が、日本茶ならではの旨みを生み出しているんです」
ソムリエで、「おちゃらか」店主のステファン・ダントンさん。日本茶のさまざまな知識を、わかりやすく教えてくれる。
浅蒸しと深蒸しの違い
日本の緑茶は、碾茶(てんちゃ)と煎茶に大別されます。碾茶は、茶道などで使われる、抹茶の原料になる粉末状のお茶。一方、スーパーやコンビニなどでもよく見かける日本茶が、煎茶です。そしてこの煎茶にも、種類があるとステファンさんは言います。
「煎茶には、茶葉を蒸す時間の短い『浅蒸し』と、長く蒸す『深蒸し』があります。浅蒸しは、蒸し時間が少ないので針のような茶葉の形が残っています。お茶の色はきれいな黄金色で、コクのある味わいが特徴ですね。深蒸しは、蒸す時間が長いため葉が砕けやすくなり、細かい茶葉を多く含みます。お茶の色は濃い緑色で、甘みのある味わいです」
日本茶は種類による味わいの違いで選ぶ
日本茶といってもいろいろな種類がありますが、日本国内で出回っている日本茶は、深蒸しが多いそうです。しかし、深蒸しと浅蒸しの味わいの違いを知らずに日本茶を選ぶのはもったいないと、ステファンさんは力説します。
「スーパーの日本茶売り場を眺めてみても、おそらく並んでいる茶葉の約8割は深蒸しでしょう。でもそれは、日本人はみんな深蒸しが大好きということではなくて、ほかの日本茶を知らないだけだと思うんです。パッケージに深蒸しと浅蒸しの違いが細かく説明されているわけでもないので、そもそも知る機会もあまりないですよね。
でも、日本茶も食べ物と同じで、人それぞれ味の好みがあるのが当たり前です。『緑茶はどれも同じようなもの』と思い込み、深蒸しと浅蒸しの味わいの違いを知る機会のないままお茶から離れてしまうのは、とてももったいないことです。茶葉を買うときには、ただ安いからという理由だけで選ぶのではなく、ぜひ種類による味わいの違いに注目してほしいですね」
すぐに実践できる!簡単でおいしい日本茶の入れ方
日本茶のさまざまな違いがわかったところで、ステファンさんに自宅ですぐに実践できる日本茶のおいしい入れ方を教えてもらいました。
日本茶を入れるのに固定観念は必要ない
普段、ペットボトルの緑茶はよく飲むのに、自分で入れるのは面倒だと思う人は多いのではないでしょうか。ステファンさんによれば、日本茶を入れる際の日本人のこだわりが、日本茶に対するハードルを上げてしまっているのだといいます。
「日本人は、こと日本茶に関しては『こうでなくてはいけない』という固定観念が強いように感じます。まず、日本茶を入れるには急須と湯飲みがなくてはいけない。茶葉は何グラム、お湯の温度は何度、急須に注いで何分何秒…そんなことをいちいち考えていたら、入れるのが面倒だと思うのも当然です。普段、日本茶を入れない人や海外の人に、日本茶のファンになってもらうこともできません。
ですから私は、従来の日本茶の固定観念を取り払いたいと思っています。お店でお客様にデモンストレーションをするときも、急須は使わないんですよ」
急須を使わずに、おいしい日本茶を入れる方法
急須を使わない日本茶の入れ方とは、どのようなものなのでしょうか。ステファンさん流の、簡単に楽しめる日本茶の入れ方を教えてもらいました。
「もちろん、ご自宅に急須があればベストですが、なくても問題ありません。湯飲みの代わりにマグカップやティーカップでも大丈夫です。
まず、湯飲みやティーカップを2つ用意します。次に、片方の湯飲みにティースプーン1杯(約5g)の茶葉を入れます。そして、もう片方の湯飲みに、自分が飲みたい分量のお湯を注いでください」
まずは、茶葉を入れていない湯飲みやカップに、お湯を注ぐ。容器は、同じ物でなくてもOK。
茶葉を入れた湯飲みやカップに、直接お湯を注がないのは、沸騰したお湯の温度を下げるためです。温度が何度なのかを気にしなくても、別の容器に注ぐだけでお湯の温度が下がり、適切な温度に近づきます。
「湯飲みやカップにお湯を注いだら、すぐに茶葉が入った湯飲みやカップの中にお湯を注ぎます。約30秒経ったら、最初にお湯を入れた湯飲みやカップに、茶こしを使って入れてください」
約30秒経ったら、元々お湯が入っていた湯飲みやカップに入れる。
「ビックリするくらい簡単ですよね。ポイントは2つ。お湯を直接茶葉に注がないことと、日本茶を残さず注ぎきること。最初に、茶葉の入っていない湯飲みにお湯を入れることで、お湯の温度を下げるのと同時に、残さず注ぎきることができます」
良い茶葉なら何度でも入れて楽しめる
急須であれば、日本茶は何杯でも飲むことができます。二煎、三煎と、もっと飲みたくなった場合はどうすればいいのでしょうか。
「日本茶は、一煎だけ入れて終わりではありません。良い茶葉なら、四煎目、五煎目でもおいしくいただけます。二煎目以降も入れ方の手順は同じですが、茶葉にお湯を注いでから30秒待たずに、すぐに入れることがポイントです。二煎目はコクが増して、一煎目とはまた違った味わいになります。日本人は、二煎目が好きという人も多いですね。基本的には、茶葉が乾燥しなければ何度でも入れて楽しめます」
自分の好みに合った入れ方を見つけよう
ステファンさんのやり方であれば、簡単に日本茶を入れられるでしょう。続いては、自分の好みに味や香りを変えたい場合についても伺いました。
「一煎目の日本茶を、お湯を注いでから約30秒で入れるのは、味や香りが出すぎないようにするためです。まずは一番簡単な入れ方で試してみて、味が物足りないと思ったら、温度や時間で調節してみてください。
入れる時間を30秒より少し長くしたり、お湯の温度を高くしたりすれば味が濃くなり、香りも強くなります。水出しの場合は、1Lの水に10g(ティースプーン2杯程度)の茶葉を入れて、冷蔵庫で一晩寝かせればOKです」
日本茶+フレーバーという新たな楽しみ方
来日前は、パリやロンドンでワインのソムリエとして働いていたステファンさん。日本茶のおいしさに出合って、その魅力を広く伝えたいと思い、「ワインと同じように視覚、嗅覚、味覚のすべてで日本茶を味わってほしい」と考えたそうです。
そうして生まれたのが、日本茶にさまざまなフレーバーを加えたオリジナルフレーバーティーでした。
ステファンさんが開発したフレーバーティー。なんと、昔懐かしいラムネのフレーバーもある。
ソムリエのアプローチで日本茶を提案する
日本茶をフレーバーティーにするという発想は、ステファンさんがソムリエだったからこそ生まれたのだそうです。
「私はもともとソムリエなので、食材に興味があります。日本では『お茶は文化』という考えが根強いかもしれませんが、私にとって茶葉はワインのブドウなどと同じ食材です。食材のすばらしさや面白さを多くの人に伝えるには、興味を持ってもらうための入り口が必要だと考えました。
ソムリエの役割は、自分が好きなワインをお客様にすすめることではなく、相手の好みやスタイルに合ったワインを紹介することです。日本茶もお客様に合わせてもらうのではなく、その人に合わせた提案をしていかなくてはダメだと思いました。特に海外の人には、日本茶の伝統をそのまま伝えても、良さをわかってもらうことは難しいでしょう。そこで思いついたのが、日本茶に果物などのフレーバーをつけることでした」
日本茶に対する従来のイメージを取り払うフレーバーティー
「おちゃらか」を開店した2005年当時は、5種類だったというフレーバーティーも、今や60種類以上。ゆずや桃といった果物フレーバーの緑茶や、チョコミントフレーバー、焼きいもフレーバーのほうじ茶など、店頭にはたくさんのフレーバーティーが並びます。
「国籍や性別、年齢、普段の食生活などによって、お客様の味や香りの好みは一人ひとり異なります。そのため、もっと多くの人に喜んでもらえるフレーバーティーを作ろうと、試行錯誤を繰り返していたら、どんどん種類が増えていったのです。なので、『おちゃらか』にはきっと、お客様に気に入ってもらえるフレーバーティーがあるはずです。
『おちゃらか』のフレーバーティーは、日本茶の味を崩さないように香り付けをしています。果物フレーバーのお茶でも果物の味はしません。豊かな香りとともに、日本茶そのものの味わいを楽しむことができます。フレーバーティーをきっかけに、日本茶に対する従来のイメージを取り払い、もっと自由に日本茶を楽しんでいただけたらうれしいですね」
お湯で入れる以外にもさまざまな入れ方が
フレーバーティーも、入れ方は緑茶と変わりません。お湯でも、水出しでも自由に入れられます。ほかにもステファンさんは、さまざまなフレーバーティーの入れ方の提案をしています。
店内には外国人旅行者のために、英語で書かれた日本茶やフレーバーティーの水出しの入れ方が。
「お客様には、1つのフレーバーにつき3パターンくらいの入れ方をご紹介しています。例えば、すもものフレーバーティーなら、温かいお湯で入れる方法と、水出しですね。少し酸味が強いので辛口の日本酒といっしょに割ってもおいしいです。また、黒糖のフレーバーティーなら、お湯で入れるのはもちろん、牛乳と煮出してもいいですし、焼酎割りもおすすめです。お茶パックなどを利用して茶葉をそのまま焼酎の瓶に入れてしまえば、もっと手軽ですね。
ユニークなものでは、国産の紅茶である和紅茶に、コーラのフレーバーを付けた和コーラ茶があります。水出しをした和コーラ茶に炭酸水をプラスして、さらにウイスキーを少し加えると最高です。香りはコーラですが砂糖は使っていません。水出しした和コーラ茶を凍らせて、アイスキューブとしてウイスキーなどに入れるのもいいですね。
日本茶には、日本人が知らない新しい魅力がたくさんあります。日本茶は決して難しくも堅苦しくもなく、もっと身近で自由なもの。さまざまなシーンや気分に寄り添うフレーバーティーが、皆さんを日本茶の世界に誘うきっかけになれば、とてもうれしいです」
<プロフィール>
ステファン・ダントン
1964年生まれ、フランス・リヨン出身。ホテル経営を学んだ後、ソムリエの資格を取得。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年、吉祥寺に日本茶専門店「おちゃらか」を開店。2014年に日本橋のコレド室町への移転の後、2020年より現在の店舗がある人形町に移転。「目、鼻、口で楽しむ日本茶」をコンセプトにオリジナルのフレーバーティーを提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。
<Shop DATA>
おちゃらか
住所 | 東京都中央区日本橋人形町2-7-16 関根ビル1F |
営業時間 | 11:00~19:00 |
定休日 | 不定休 |
ショップURL | https://www.ocharaka.co.jp/ |
※お問い合わせは上記ショップURLの「お問い合わせ」よりお願いいたします。
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