アンガーマネジメントで怒りをコントロールして、楽に生きよう!
ついカッとなって余計なことを言ってしまう、ちょっとしたことが気になってイライラが抑えられない――近頃、自分や周りの「怒り」を感じることが増えていませんか?
生活様式の急激な変化や行動の制限、自分が信じる正義とは異なる行動をする他人への怒りなど、社会には負の感情としての怒りが蔓延しています。
どうすれば、怒り、怒られるストレスから自分を解放することができるのでしょうか。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者であり、日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介さんに話を聞きました。
練習すれば、誰でも怒りをコントロールできるようになる
――そもそも、どのようなときに人は怒りを感じるのでしょうか?
安藤さん(以下、敬称略):
怒りが起こる仕組みは、ライターの仕組みと似ています。そこにライターがあるだけで火はつきませんが、レバーをカチッと押し下げて火花が散ったとき、そこにガスがあると火が燃え上がりますよね。
このレバーが下りて火花が散るタイミングが、自分の中にある「こうあるべき」の「べき」が裏切られたときです。これは主に、その人が無意識のうちに大切にしているこだわりや、価値観などです。人は誰でも、「こうあるべき」ということを、少なからず持って生きています。
例えば、子供が片づけをしないことに怒りを感じるのは、「部屋は整理整頓してあるべき」という「べき」が裏切られたからなんですね。
こうした信念や思想、考え方は一人ひとり違って当然なのですが、それによってイライラしたり、すぐに怒ってしまったり、日常生活に支障をきたすようなら見直したほうがいいでしょう。
――なるほど。なぜ、人がカッとするのかがわかりました。
安藤:
そして、飛び散った火花を燃え上がらせるガスが、マイナスな感情や状態です。
<マイナスな感情・状態> ・つらい ・寂しい ・悲しい ・苦しい ・疲れている ・ストレスが大きい ・寝不足 ・体の具合が悪い |
こうしたマイナス感情は、低下した身体状態によっても引き起こされます。火花が散っても、ガスがなければ火はつかないんです。疲労が蓄積しているときや、ストレスが溜まっているとき、嫌なことがあって落ち込んでいるときなどは、ガスが充満している状態ですね。
――コロナ禍でイライラする人が増えたのは、ガスになる感情が増えているからでしょうか?
安藤:
そのとおりです。社会不安が広がると、人が抱くマイナスな感情が増えて、怒りが蔓延するといわれています。
アンガーマネジメントが一気に普及したのも、9.11のアメリカ同時多発テロ事件による社会不安の増大を受けてのことでした。その考え方が生まれたのは1970年代のアメリカで、軽犯罪者のための矯正プログラムとして活用されていましたが、時代の変遷とともに心理教育、心理トレーニングとして一般化しています。
安藤:
アンガーマネジメントは怒らないようにすることだと捉える人がいますが、そうではありません。怒りそのものがネガティブなわけではないのです。
大切なものを守りたいときに怒りがわくのは自然なこと。怒るべきときはうまく怒る、怒らなくていいときは制御することが大切です。怒ったことに落ち込まないで、上手に怒りをコントロールする技術を身につけましょう。
私自身、以前は怒りをコントロールできない自分にコンプレックスがあって。アメリカで働いているときに、友人がアンガーマネジメントというものがあると教えてくれ、それが学ぶきっかけでした。練習すれば誰でもできるようになりますよ。
怒りの癖を見極める
――日常生活でアンガーマネジメントを取り入れるには、何から始めたらいいですか?
安藤:
自分の中にある「べき」を分類し、自分にとってそれほど重要でない「べき」を減らすことから始めましょう。
まずは、普段の暮らしを振り返って、どんなときに「べき」やそれに類する言葉を使っているか、考えてみてください。
<「べき」に類する言葉> ・普通は~ ・~なはず ・当たり前 ・常識 |
「普通は」「常識では」など、意外と会話に登場していませんか?自分がどんな言葉を使っているかがわかったら、次は「いつ」使っているかを確かめましょう。ただ、こうした言葉は瞬間的な怒りとともに生まれ、気づいたときには感情に飲み込まれてしまっていることが多いので、どうしても忘れがちですよね。
そこで、おすすめなのがメモをとることです。メモ帳でも、スマートフォンでも構いません。自分のやりやすい方法で、怒りにつながる言葉を使ったら、そのシーンを記録してみてください。できれば、「疲れていた」「大事な会議の前でストレスが溜まっていた」など、そのときの心身の状態も簡単に書いておくといいですね。
1週間なり、1ヵ月なり、一定期間続けてメモを見返すと、怒りの傾向が見えてきます。
――どのようなときに怒りを感じやすいのかがわかってくるのですね。
安藤:
傾向がつかめたら、次は分析です。怒りを感じたシーンで、それが自分の許容度をどのくらい超えていたかを考えましょう。「べき」の中でも絶対に譲れないもの、許せるものがあって、客観的に考えると「怒るほどでもないな」と思うものもあるでしょう。
また、絶対に譲れない「べき」の怒りも、傾向がつかめれば事前に対策をとれます。
疲れているときに怒りやすいなら、疲れが溜まる前に休む。仕事仲間の対応の遅さに怒りを感じるなら、明確に締切りを伝えておく。それだけで、だいぶ気持ちに余裕が生まれると思いますよ。
怒りは相手へのリクエスト――伝え方を考えて
――アンガーマネジメントでは、「怒りを感じたら6秒数えるといい」と聞いたことがあります。6秒で怒りは収まるのでしょうか?
安藤:
怒りが生まれてから、6秒あれば理性が介入すると考えられています。怒りが消えるわけではないのですが、6秒待てば、脳が理性的に怒りに対処できるようになるんですね。
そうすると、その怒りがどの程度のものなのか、相手に気持ちを伝えるにはどうすればいいのか、落ち着いて考えることができるんです。考えることができれば、怒りをぶつけて後悔したり、溜め込んでストレスになったりすることがありません。
先程お話ししたように、怒りをメモする癖をつけると、いつの間にか6秒経っていると思いますよ。
――相手に気持ちを伝えるときの注意点はありますか?
安藤:
怒りは、相手へのリクエストともいえます。子供が片づけをしないときに「何度言ったらわかるの!」「ちゃんとして!」と怒っても、子供はなかなか動きませんよね。これは、感情だけをぶつけてしまって、リクエストが伝わっていないからです。
ミスをした部下に「なんで何度も同じことをするんだ!」と叱っても、いまいち手応えがないときも同じこと。
こうした怒り方は、感情が先に立って、怒りたいから怒っているだけなんです。怒られた相手は、何をしていいかわからず、戸惑うだけでしょう。
――どのようなことに注意すれば、相手にリクエストが伝わりやすくなるのでしょう。
安藤:
基本的なところでは、5W1Hを意識すること。「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」を織り込んで会話をすると、ぐっと伝わりやすくなります。すべてを言葉にするのは不可能ですから、その中のいくつかを取り入れるようにしてみましょう。
もうひとつは、「何をしてほしいのか」を具体的に伝えること。先程の例でいえば、「片づけて」「同じ失敗を繰り返さないで」というように、リクエストを具体的な言葉にすることを意識してください。
――反対に、言わないほうがいい言葉があれば教えてください。
安藤:
相手への伝え方では、怒りを修飾するNGワードを使わないことがとても大切です。そのためには、4種類のNGワードを覚えておくことをおすすめします。
1 過去を持ち出す言葉 ・あのときもそうだった ・前にも言った ・ずっと言おうと思っていたけど |
1つ目は「過去を持ち出す言葉」です。「あのときもそうだった」「前から言おうと思っていたけど」などですね。
過去を持ち出す言葉は、怒っている自分がいかに正しいかを伝えるための修飾語で、実は特に意味がないんです。相手は「今は関係ないだろう」「終わったことを出さないで」と反発したくなるでしょう。怒っていいのは、「今」に関することだけです。
2 相手を責める言葉 ・なんで ・どうして |
2つ目は「相手を責める言葉」です。怒っているときは、つい「なんで」「どうして」などと言いたくなりますが、責める言葉は相手を追い詰めてしまい、相手の選択肢は言い訳や逃げることしかなくなります。怒っている原因も伝わらず、本質的な解決になりません。相手の行動に疑問や不信感を抱いたら、「どうすれば◯◯できる?」と、未来を聞く文章に変換してください。
3 決めつけ言葉 ・いつも ・絶対 ・必ず |
3つ目は「決めつけ言葉」です。「いつもそう」「必ずするよね」など、相手のミスや気に入らない行動を強調したいシーンで使いたくなる言葉ですが、決めつけ言葉が本当であることはほぼありません。そのため、相手は「いつもじゃないのに」と反発するだけになってしまいます。
4 程度を表す言葉 ・ちゃんと ・しっかり ・きちんと |
4つ目は「程度を表す言葉」です。「ちゃんと」「しっかり」といった言葉は、怒りを感じている本人と、相手との認識に差が出る可能性が高い言葉です。「ちゃんと」がどのくらいなのかは、人によって異なるでしょう。「ちゃんとやってよ」「ちゃんとやってるし!」といった不毛な言い争いになるのはそのためです。
「ゴミは分別してから捨てて」「宿題を全部終わらせてからゲームをして」というように、程度を表す言葉を具体的なメッセージに変換して伝えましょう。
安藤:
人と人がぶつかるのは、互いの「べき」の違いによるものが大きいです。自分と相手の許容範囲を考えて、感情ではなくリクエストを伝えることを意識することで、無駄な衝突を避けられる場合があります。
アンガーマネジメントを実践して、最初から思いどおりに怒りをコントロールできる人はいません。初めは完璧を目指さないこと、失敗したら謝ること。続けていけば、必ずできるようになりますから、あきらめないで自分のペースで取り組んでみてください。
●取材協力
一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会
住所 | 東京都港区芝浦3-14-8 芝浦ワンハンドレッドビル6F |
URL | https://www.angermanagement.co.jp/ |
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