片付けで生きる力を育む!子供を片付け上手にするコツとは?
子育て中の家庭に多い悩みが、子供の片付けではないでしょうか。子供に何度「片付けなさい!」と言っても部屋は散らかったままで、毎日イライラしてしまう…という親の声も少なくありません。
では、子供に片付ける習慣を身に付けさせるには、どのようにすればいいのでしょうか。「家事は人を育てる」という自身の経験から、高校時代に「粂井塾」を立ち上げ、主に小中学生に向けた家事講座を開催している、現役大学生の粂井龍三さんに伺いました。
子供が片付けられないのには理由がある?
――「子供が片付けをしない」と悩む親は多くいます。片付けられない理由とは何でしょうか?
粂井龍三さん(以下、敬称略):一言で「片付けられない」といっても、子供の年齢によって理由は異なります。幼児から小学校低学年くらいまでは、まだ片付けの重要性を理解していないケースが多いですね。その場合、「なぜ片付けが必要なのか」「散らかっていると何が困るのか」を、しっかり伝えていく必要があります。
もう少し年齢が進むと、片付けない理由の第1位は、圧倒的に「面倒くさいから」です。さらに、反抗期に入ると、親の言うことにとにかく反発したくなります。そうなると、親が「片付けなさい!」と叱れば叱るほど逆効果になってしまいます。
粂井塾の塾長、粂井龍三さん。
――「片付けなさい」と言ってもダメなら、どうすればいいのでしょう。
粂井:大切なのは、待つことです。子供が自分から「片付けよう」という気持ちになるように、うまく親が持っていけることが理想。ただ、口で言うのは簡単ですが、待つというのは非常に難しいことです。子供の性格やご家庭の教育方針にもよるかもしれませんが、僕は、ご褒美ルールを設定するのもひとつの方法だと思います。
「ここを片付けたらお菓子を食べられる」「部屋をきれいにしたらゲーム時間延長」など、あらかじめご褒美を決めておくと目標ができるので、片付けが進むのではないでしょうか。
――一方で、小さい頃から片付ける習慣が身に付いている子もいます。片付けができる子とできない子の差はどこにあるのでしょうか?
粂井:実際に、お手伝いをして家族に「ありがとう」と感謝された経験が多い子ほど、片付けが上手だと感じています。
ご家庭で子供が「ありがとう」と言われる機会は、意外と少ないもの。テストで良い点数を取っても、かけっこで一番になっても、「ありがとう」とは言われないですよね。片付けをして「◯◯ちゃんのおかげでおうちがきれいになった、ありがとう」「お片付けをしてくれたから家の用事ができて助かったよ、ありがとう」などと感謝されることで、「家族の役に立っている」という自己肯定感や達成感が子供に生まれていくんです。
片付けを通して育まれる子供の自己肯定感
――子供には何歳頃から片付けを始めさせるのがいいと思いますか?
粂井:自分で考えて片付けられるようになるのは幼稚園くらいからですが、1~2歳でも片付けのお手伝いをすることはできます。僕もヨチヨチ歩きの頃にはもう、食べ終わった食器を下げるお片付けをしていました。子供用のお盆に、落としても大丈夫な木やプラスチックの食器をのせてもらい、台所まで運んでいたそうです。
――年齢とともにできることも増えていきますね。
粂井:3~4歳くらいになったら、布巾でテーブルを拭いたり、自分のおもちゃをおもちゃ箱にしまったりするのもいいですね。このとき、おもちゃ箱の中が整理されていなくても大丈夫。小さいうちから、「物は片付ける」という意識を作っておくことが大切なんです。
小学生に入る頃には、おもちゃの片付けのほか、家族の洗濯物をたたむなどのお手伝いもできるようになります。
――粂井さんご自身も、子供の頃から家族の片付けを手伝っていたのですか?
粂井:僕は両親(母親は、1級家事セラピスト・整理収納アドバイザーの粂井優子さん)と2人の姉という5人家族で育ちましたが、小学生の頃にはお手伝い当番表がありました。月曜日は階段掃除、火曜日は掃除機がけというように自分の担当が決まっていて、登校前にそれが終わらないと学校には行けないというルールだったんです。
学校に行けないのは嫌だったので、どうすれば早く終わるかをすごく考えました。例えば、家族全員の洗濯物をたたむときは、「最初に大きなタオル、次にシャツ、最後に靴下にすれば、両足を探しやすいな」とか。いろいろ試すうちに、どんどん効率を求めるようになって、手早く終わらせられるようになりました。
――片付けから計画性が養われそうですね。
粂井:片付けをはじめとするお手伝いをすることによって、自己肯定感や計画性、さらには協調性や正義感などが養われると思います。「早く終わらせるためにはどうすればいいか」と試行錯誤することで、みずから考え工夫する力も身に付きますね。
「自然体験や生活体験、お手伝いといった体験が豊富な子供や、生活習慣が身に付いている子供ほど、自己肯定感や道徳観・正義感が高くなる傾向がある」という、国の調査結果もあるんですよ(※)。
※国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する実態調査(平成26年度調査)」
整理整頓が苦手な子でも実践できる片付けルール
――粂井塾では、どのような片付け講座を開催しているのですか?
粂井:主に小学生を対象に、片付けやお手伝いの大切さを伝えています。お手伝いをする理由や具体的な方法をアドバイスした後は、実際にお子さんたちに机の引き出しの片付けをしてもらいます。
引き出しはひとつの例ですが、片付けのコツさえマスターすれば、ほかの場所も同じやり方で整理整頓することができるからです。
粂井塾の様子。
――どのように片付けを進めていけばいいのでしょう。
粂井:初めに、引き出しの中に入っている物を全部外に出します。全部出してみると、ほとんどの子が「こんなに入っていたの?」とビックリします。おそらく、予想の倍くらいの量が出てくると思いますよ。
物を出したら、今度はそれを「いる物」と「いらない物」に分けます。中には、子供自身でも「こんなの入れたっけ?」と思うような物が入っているかもしれません。引き出しに限らず、物が散らかる原因は「入れるスペースに対して物が多すぎるから」の一言に尽きます。いらない物を処分することで、まずは物の量を減らしましょう。子供だけでは判断が難しいことも多いので、親もいっしょにやってあげてくださいね。
ぐちゃぐちゃになりがちな子供の机の引き出し。
引き出しの中の物を全部出し、いる物といらない物、迷う物に分ける。
いる物は文房具、紙類、おもちゃ、宝物…など種類ごとに仕分けする。
――物をしまうときに気を付けることは?
粂井:いる物が決まったら、鉛筆や消しゴムといった文房具や手紙などの紙類など、種類ごとに分類して引き出しにしまいます。このとき注意するのが、使用頻度が高い物を手前にすることと、物を重ねないこと。上から俯瞰で見たときにすべての物が見えるように入れ、取り出しやすくしまいやすい状態を作りましょう。
お子さんには、この2つのポイントだけを伝え、どこに何を置くかは親が指示するのではなく、本人が決めるようにしてください。これはおもちゃや洋服の片付けでも、どこでも同じです。物の定位置を自分で決めることで、「使ったら戻す」という習慣が付きやすくなります。
しまう場所を決めるのは子供に行わせ、使用頻度の高いものは手前に。
――いる・いらないの基準は、どうやって決めればいいのでしょうか。
粂井:いる物といらない物を分けるのは、基本的には「今、必要かどうか」です。「まだ使えそう」「いつか使うのでは」と思って取っておいた物は、結局使わないまま引き出しの奥に眠ったままになりがちだと思います。
ただ、子供の場合の片付けは少し違っていて、大人から見て「これはいらないのでは?」と思っても、子供にとっては宝物ということもあります。本人にとって大切なら、それは「いる物」になるでしょう。いる・いらないを選ぶときは、お子さんの思いや物にまつわるストーリーにも耳を傾けてあげてください。
親子でいっしょに片付けに取り組もう
――片付けてもまた散らかってしまったら、どうすればいいですか?
粂井:本来なら、一度片付けた後は使ったら戻すを繰り返し、きれいな状態をキープするのが理想です。散らかってしまう場合は、当初より物が増えているのでしょう。収納スペースには限りがありますから、いくら子供が「いる」と言っても、際限なく物を置いておくわけにはいきません。
おもちゃならおもちゃ箱、文房具なら引き出しなど、しまう物の上限(ベストな定量)を子供本人が把握することが大切です。その上で、入りきらなければ「おもちゃ箱があふれちゃっているね、どうしようか」などと、考えさせるためのひと声をかけてみてください。
――物を減らすコツはありますか?
粂井:子供だけに限らず、物は「いらない物を減らす」のではなく、「いる物を選ぶ」ことが大切です。例えば、おもちゃが20個あって、おもちゃ箱に10個しか入らないのであれば、「10個捨てなさい」ではなく「好きなおもちゃベスト10を選ぼう」と言ってみてください。そして、おもちゃを手放すときには、「今までありがとう」と声に出して感謝したり、譲る場合は相手を思い浮かべたりすると、子供も納得しやすいと思います。
いる・いらないが決まらないときは、「わからない」として別の箱などに一時保管します。保留にしているうちに、子供本人もその存在をすっかり忘れてしまうこともよくありますので、時期が来たら親が手放すのもいいですね。
「いるかいらないかわからない」物は一時保管置き場を作って入れておく。
――片付けに対する子供のモチベーションを上げるには?
粂井:粂井塾で心掛けているのは、とにかくほめることと、感謝を伝えること。講座には、親から半ば強制的に参加をさせられた小学生や、片付けに対してネガティブなイメージを抱いている子がたくさんいます。
そういう子たちには、「低学年の子を手伝ってあげてね」「時間配分を気にしてくれると助かるな」など、サポート役として何らかの役割をお願いするんです。初めはイヤイヤやっていた子も、与えられた責任をまっとうしますし、行動をきちんと認めてほめていくと、片付けにも取り組んでくれるようになります。
――子供を片付け上手にするために、親が心掛けるといいことはありますか?
粂井:子供の片付けはどうしても時間がかかり、親としてはつい手を出したくなるかもしれません。でも、そこはこらえて、子供自身の工夫を見守ってあげてほしいですね。片付けのやり方を1から10まで教えるのではなく、「どうしたら早くできると思う?」と問いかけたり、物が入りきらなかったら「もう少し物を減らしたほうがいいかもね」と、答えではなくアドバイスをしたりするのがおすすめです。
また、家には親の物が散らかっているのに、子供に「片付けなさい」と言っても説得力がありません。もし、お父さんお母さんも片付けが苦手な場合は、「お母さんはキッチンの引き出しを片付けるから、◯◯ちゃんも自分の机の引き出しを片付けよう」と誘う、「いっしょにがんばろう作戦」はいかがでしょうか。親子で同じ時間に自分の担当場所を決めて片付け、終了後はお互いをほめ合うことで、きっと親子のコミュニケーションにもなると思いますよ。
<プロフィール>
粂井 龍三(くめい りゅうぞう)
3人姉弟の末っ子として生まれ、姉2人とともに、幼い頃からお手伝いが当たり前という環境で育つ。その経験から「家事は人を育てる」ことを実感し、2017年に「粂井塾」を設立。「生きる力を家事で育む」をモットーに、主に小中学生を対象とした家事講座をスタートする。その後はアメリカ留学を経て、企業研修や外国人向け英語家事講座など、活動の幅をさらに広げている。慶應義塾大学法学部在学中。
執筆者プロフィール