自分の魅力が伝わる自然な話し方・伝え方のコツ

コロナ禍で、コミュニケーションの在り方にあらためて注目が集まっています。これまでとは違う距離感の中で、自分の思いをきちんと相手に伝え、相手の思いをしっかりくみ取ることができているか、不安に思うことも多いのではないでしょうか。

「コミュニケーションはすべての基本」を理念に掲げ、個性を活かして人を惹き付ける話し方を提唱する前田カオリコさん。フリーアナウンサーで話し方の講座や企業研修を行う前田さんに、あらためて知っておきたい話し方・伝え方のコツについて教えていただきました。

少しの工夫で、コミュニケーションは変わる

――一生懸命話しているのになぜか相手に伝わらない、わかってもらえないと悩む方は多くいます。

前田カオリコさん(以下、敬称略):
まず、良好なコミュニケーションは、相互尊重の気持ちがないと成り立ちません。自分が思っていることを伝える際には、相手に理解してもらえるような伝え方を意識しましょう。コミュニケーションのシーンはさまざまですので、そのシュチュエーションや関係性によって伝え方が異なるのは当然のこと。ですから、話をするときは、自分だけではなく、相手の立場をイメージしながら、話し方・伝え方の工夫をしてみてください。
自分の常識がすべてではなく、多様な価値観があることを踏まえ、「自分も、相手を理解する」という視点を忘れないようにしましょう。

フリーアナウンサーで話し方の講座や企業研修を行う前田カオリコさん。

――コミュニケーションには、ほかにどのようなことを注意すればいいのでしょうか?

前田:
自分の話をちゃんと相手に伝えるためには、相手が受け止めやすい話し方・伝え方を心掛ける必要があります。まず、コミュニケーションで気を付けたい4つのことをお伝えします。

1 おなかから声を出す

話す以前に、声がしっかりと出ていないという人が多く見受けられます。 自分が思っているより声が小さかったり、こもっていたりすると相手に自分のことを認識してもらえる機会を逃してしまうことにもなりますので、発声から見直してみましょう。
声が通りにくい原因のほとんどは、喉から声を出していること。喉から出る声は胸周りの筋肉だけを使って息を吐いている状態なので、声帯にあたる息の量が少なく、声が通りません。空気をおなかに溜め込むように息を吸い、腹筋と胸筋を使って吐ききる腹式呼吸を意識して、おなかから声を出すようにします。
このとき、練習でおすすめしているワードは、「こんにちは」などの挨拶言葉。この「こんにちは」を相手に気持ち良く届けられるように、何度も鏡に向かって言ってみましょう。日常での挨拶がきちんとできるだけで、コミュニケーションが円滑になるので効果を実感しやすいと思います。

2 話す姿勢・聞く姿勢を正しく

話をする際、自信のなさや恥ずかしさから、猫背になったり、下を向いていたりしていると、せっかく出した声が机や地面に落ちてしまいます。背筋を伸ばし、胸を開いて相手に声を届けるという意識が大切です。そして、「体と視線を相手に向ける」ことも忘れないようにします。

例えば、パソコンに向かって忙しく作業をしている最中に誰かに話しかけられたとき、体も目線も画面に向けたまま対応していませんか?どんなときでも、会話をする際は一旦作業を止めてから、相手の目を見て、体を向けるのがコミュニケーションの鉄則。この行動は、相手を尊重し「あなたと話をする準備ができている」「あなたの話を私はしっかり聞きたいと思っている」と印象づけ、信頼感にもつながります。

3 一つひとつのセンテンスは短く

相手に思いを伝えようとするあまり、だらだら話し続けてしまう話し方も伝わらない理由のひとつです。

「~なのですが」「~していて」のように、一文にあれもこれも情報を盛り込んで接続詞でつないでいく話し方は、話の要点が見えにくく、聞き手の集中力も途絶えがちに。センテンスはできるだけ短く、句点で切りましょう。
例えば、相手をランチに誘う場合、「イタリアンのいいお店があるので、ランチに行こうと思っているんですが、明日、ご都合つけばいいんですけど…」と言うのと、「明日、ランチ行きませんか?イタリアンのいいお店があるんです。ご都合いかがですか?」では、印象は大きく異なります。前者は、誘われているのかどうか曖昧なニュアンスに聞こえますが、後者は「あなたといっしょにランチに行きたい」という気持ちが相手に伝わりやすくなります。会話は、言葉そのものよりテンポがいいと理解しやすくなるものなのです。

4 挨拶と返事は忘れない

コミュニケーションには、挨拶が欠かせません。挨拶はコミュニケーションの重要な要素であり、自分の第一印象を左右する大切なポイントです。

また、何か質問をされたら、「はい」と短く、明瞭に返事をしましょう。同じ「はい」でも、「はーい」と伸ばしたり、「はい?」と聞き返したりすると、印象は良くないものです。
返事の仕方を変えるだけでも、相手に好印象を与え、その後のコミュニケーションを円滑にする効果があります。挨拶と返事の仕方ひとつで、その人の人間性も伝わります。周りの人にどういう印象を与えたいのか、どういう返事をされると気持ちいいのか、ということを想像できるといいですね。

自分の話し方・伝え方は大丈夫?話し方チェックリスト

――コミュニケーションが苦手ではないと本人は思っているけど、実はそうでもない…ということもありそうな気がします。

前田:
自分の話し方や伝え方を客観的にチェックする機会は、なかなかないですよね。そのため、「コミュニケーションは得意なほうだ」と思い込んでいたりする人も実は少なくありません。

以下のチェックリストのうち、自分にあてはまるものがどれくらいあるか、確かめてみましょう。チェック項目が多かった人は、要注意。思い当たった項目の改善ポイントを参考にしてみてくださいね。

チェック1:相手の言動や反応が気になって黙ってしまうことが多い 

・「人に嫌われたくない」「否定されたくない」という思いが強く、話をする相手の反応を必要以上に気にしてしまう。
・余計なことを言ってしまいそうなので、黙っていることが多い。

<改善ポイント>
他人の気持ちを尊重する姿勢は素敵ですが、話し手は自分です。自分の考えや感じた気持ちを優先し、冷静に相手へと伝えるようにすることが大切です。また、その場で意見が言えなかった場合は、メールやチャットなどのツールを使って、時間を置いてからあらためて伝えるようにすると、誤解を招くリスクが減りますので、試してみてください。

チェック2:自分の意見や考えに自信が持てない

・自分に自信が持てず、「相手の考えより劣っている」「自分の意見には価値がない」と自己否定してしまう。
・考えや方針がはっきりせず、ブレたり、何を言うべきかがわからなかったりすることがよくある。
・結果的に多数派の意見や、押しが強い人の意見に流されてしまう。

<改善ポイント>
前提として、人は考え方、経験、育った環境、価値観というものはそれぞれ異なるもの。そのため、自分の意見がいつでも相手と同じである必要はないのですが、自信が持てず不安に感じてしまう人も多いようです。
会話下手だと思っている人に最も多いのが、自己肯定感が低いタイプかもしれません。でも、相手はただあなた自身の意見が聞きたいと思って話をしているのですから、まずは自分の考えや思いを相手に伝えましょう。もし、自信がない場合は、知識や経験値を上げられるように視野を広げて自分の意見を持てるようにすることも大切です。

チェック3:自分が正しいと思い込みがち

・相手から意見を否定されたり、間違いを指摘されたりすると不機嫌になる。
・他人の意見やアドバイスを素直に受け入れられないことが多い。

<改善ポイント>
自分の意見に自信を持つことは、とても大事なことです。しかし、いつでも自分が正しいとは限りません。相手の声に耳を傾け、自分自身を疑ってみることも重要です。
もし、相手と自分の考えが違っていたら、相手の主張を一度受け入れた上で、「自分はこう思っていますが、どうですか?」と意見を述べるようにしましょう。

チェック4:自分の話しかしない

・自分が主語の話ばかりで、相手の話に対する反応をしていなかったり、興味がなかったりすることがよくある。
・会話の途中でも「私の場合は~」「私なら~」と割り込んで話を持っていく傾向がある。

<改善ポイント>
「自分のことを相手に知ってもらいたい」「よく思われたい」という気持ちが強く出ているのかもしれません。自分の話をした後に、相手にも「〇〇さんは、どうしていますか?」と同じ話題で尋ねてみましょう。他の人はどう考えているのかを知る機会にもなり、相手からの信頼を得られます。言葉のキャッチボールを心掛け、双方向でのコミュニケーションを楽しむようにしてください。

チェック5:相手のことばかり聞く

・自分の情報は出さずに、「何の仕事をしているんですか?」「今、おいくつですか?」など、相手のことばかり根掘り葉掘り聞きがちである。

<改善ポイント>
「沈黙が不安で相手に質問ばかりしてしまう」という人も多いようです。しかし、会話中に沈黙する時間があってもおかしいことはないので、沈黙にも慣れておくことも大切です。また自分のことを言わずに、根掘り葉掘り聞くというのは、相手に対しての配慮が足りていないですよね。
相手を理解したいという気持ちで尋ねている場合でも、質問の仕方が重要です。相手が答えやすく、自分が聞かれたらどう感じるかを考えましょう。質問をする際に、自分が答えてから(自己開示)、相手に尋ねるようにするのもいいですね。

チェック6:一般論や第三者の話ばかりする

・誰もが知っているような一般論や、「◯◯さんの奥さんが…」といった第三者の話などに終始してしまう。

<改善ポイント>
一見、会話はうまく続いているように見えますが、お互いの信頼感を築いたり、理解を深めたりすることは難しくなります。初対面の相手との会話のきっかけとしては有効かも知れませんが、仲を深めていきたい相手には、もう少し自分自身のことなどを盛り込んで話をするようにしましょう。噂話に終始したり、ゴシップばかり話題にしたりしていると、相手は心を開いて話をしなくなる場合がありますので、注意が必要です。

こんなときどうする?話し方・伝え方のコツ

前出のチェックから、「もしかして…」と思った人は、コミュニケーションの在り方を見直すチャンスかもしれません。ここからは、前田さんによくある日常生活のシーンごとに、話し方・伝え方のコツを教えてもらいました。

家庭で何かを依頼するとき

家族間の会話は、極端に短くなりがちです。先程お話ししたコミュニケーションの基本の4つがすべてできているという方は少ないのではないでしょうか。特にご家庭での場合、一番悩みを抱えがちなのが、家族に何かを依頼する場合の伝え方だと思います。具体的には、下記のような伝え方が有効です。

STEP1:やってほしいことを明確に言語化する
例えば、「食事が終わったら食器を下げて洗い物をし、拭いて片付ける」という一連の流れを担当してほしいとき、無言で相手の出方を待ったり、「洗い物お願い」と一部の作業だけ抜き出して伝えたりするのはNGです。特に、相手が男性の場合は、「察して!」は通用しません。「食器を洗って、拭いて、しまってくれる?」と、やってほしいことを具体的な表現にして伝えるようにします。

STEP2:やってほしいことに心情をプラスする
依頼をする際、「~してくれるとうれしいな」「~をしてくれたらすごく助かる」のように、自分の心情をプラスします。誰しも家族の「助けになりたい」「頼られたい」という気持ちはどこかに持っているものです。毎回は難しいでしょうが、「こうすれば喜んでくれるんだな」「うれしいんだな」と、相手がイメージできる丁寧な話し方・伝え方を意識するようにしましょう。

ビジネスシーン

ビジネスシーンでは、話の組み立て方を意識することが大切です。
結論→理由→具体例→結論→明るい未来」とするよう、心掛けましょう。

まず、結論から話すと、相手は最初の段階で今回の話の目的や主題を理解することができます。続けて、理由や具体例を話すことで説得力が増し、結論への理解がより深まるように。そして、最後にもう一度結論を話し、相手の記憶にしっかりと刻みつけます。さらにポイントは明るい未来をイメージしてもらうことで、実際に行動に移せるようになるのでプレゼンの際には特に有効です。
このような話し方を意識することで、説得力を持たせながら、相手に自分の意図を正確・簡潔に伝えることができるのです。

初対面が多い環境

初対面の相手ばかりの環境で、どうすれば打ち解けられる会話ができるのか、誰しも一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。話をするのが苦手な場合と、話すのは好きだけど、どこまで自分を出していいのかわからない場合に分けて考えてみましょう。

・話すのが苦手な場合
上手に話せない人は、聞き役に徹してしまいましょう。
聞き役の存在は、グループの潤滑油になります。話すのが得意ではないなら、無理に自分を押し殺したり、理想の自分をめざしすぎたりせず、話下手と感じている自分を受け入れてしまうと楽になります。また、周りの人は自分が思っている程、話し上手であることを期待していないものです。自らハードルを上げる必要はないことを知っておきましょう。

・どこまで自分を出していいのかわからない場合
キャラクターを受け入れてもらえるかどうか不安で自分らしさを出し切れない場合は、小出しにするのがおすすめです。会話に少しずつ自分らしさを加えてみるといいですね。
また、自分をどこまで出していいのか悩むことが多い人は、その原因や理由を明らかにすることも大事です。とはいえ、自己分析には限界もあるので、話し方の専門家などに相談するのもおすすめです。

テキストコミュニケーション

ビジネスシーンにおけるテキストコミュニケーションでは、「読み手の負担をなくす」ことが大切です。
だらだらと長文を送るのではなく、起承転結を心掛けて文章を簡潔に整えます。ほかにも「小見出しをつける」「番号を入れる」「一文を短く読みやすくする」など、相手がストレスなく理解できるように端的に伝えましょう。

ビジネスメールなどで、プライベートなメッセージを入れる場合は、相手との関係性・性別・家庭環境など配慮しながら、他愛もないけれど役に立つ情報や、お礼などをさらりと加えられるとよりいいでしょう。

自然体でいることで、個性が輝くコミュニケーションを

――最後に、伝え方や話し方に悩む方にアドバイスをお願いします。

前田:
ちょっとしたコツを知ると同時に、自分らしく自然体でいることを心掛けながら実践するだけで、伝わる話し方ができるようになるだけでなく、その人自身の個性が一段と輝きます。
ぜひ、この機会に、これまでのコミュニケーションを見直して、自分の魅力が伝わる伝え方、話し方を身につけてください。

<プロフィール>

前田カオリコ
魅話力®️コンサルタント。株式会社リコラボ代表取締役、一般社団法人ブルーミング・マム代表理事。テレビ信州のリポーターを経て、フリーに。「コミュニケーションは全ての基本」を理念に、話し方から個人の魅力を引き出す研修・コンサルタント業務を行う。魅話力(みわりょく)は登録商標。新宿区外部評価委員。

魅話力〜喋りのプロが伝えるコミュニケーション〜

 

執筆者プロフィール

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