調味料ブームの火付け役!「調味料選手権」の舞台裏に迫る
近年、さまざまなテレビや雑誌で特集が組まれ、それらで紹介された物は途端に品薄になるなど、空前のブームといっても過言ではない調味料。そして、このブームを牽引している「調味料選手権」というイベントをご存じでしょうか。
調味料選手権とは、エントリーによって集められた数々の調味料の中から、調味料ソムリエやシェフ、バイヤーをはじめとする専門家に加え、一般の方も投票に参加して受賞調味料を決めるイベントです。開催にあたり、どのような目的と想いが込められているのか、品評員の一人でもある調味料ソムリエプロのMICHIKOさんにお話を伺いました。
全国各地の調味料が集結する調味料選手権
調味料選手権が初めて行われたのは2010年。以来毎年、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が制定した「イイ(11)味覚(3)の日/調味料の日」である11月3日に、最終審査および表彰式が行われています。開催に至るきっかけには、当時の調味料を取り巻く背景もあったそうです。
「調味料は料理に欠かせない物ですが、当時、調味料はそれほど注目されていませんでした。それどころか、調味料業界がどんどん縮小傾向にあった時期で。それをもっと活性化したいと思ったことが、調味料選手権開催の発端でした。
2009年に行った調味料選手権のプレイベントでは、私たち品評員が全国各地の調味料を集めたのですが、当初の目標が500種類だったところ、650種類も集まりました。その中には、地方でしか売られていない物、小さなメーカーさんが作っている物など、おいしいのに知名度が低い調味料もたくさんあって…。
調味料選手権には、知る人ぞ知るご当地調味料や、メーカー一押しの調味料を発掘し、そのPRに貢献する目的もあります」
現在は、全国の調味料メーカーからエントリーされた調味料を専門家たちが食味審査し、受賞調味料を決めていますが、ただ決めるだけで終わらないのが調味料選手権の特徴でもあると、MICHIKOさんは言います。
「私たちが食味をして感じたこと。良かった点はもちろん、もっとこうしたほうがいいんじゃないかという意見や改善案を、生産者の方につぶさにフィードバックしているんです。そのフィードバックをもとにリニューアルを重ねて、翌年賞をとった商品もあります。
食味審査を行うのは食のプロばかりなので、そうした方々の意見は生産者の方たちにとってもメリットになると思いますし、実際喜んでいただくことも多いですね」
調味料選手権では、「塩部門」「甘味部門」「酢部門」など細かく分類され、その数は現在計17部門に上ります。部門の多さにも調味料業界の活性化につながる理由があるそうです。
「おかげさまで、調味料選手権で受賞した商品は、その後の売り上げも飛躍的に伸びることが多く、生産者さんたちにとって良い結果につながっています。
また、一口に調味料といっても、その種類は多種多様です。たくさんの部門を設けることで、エントリーする際に『自社の商品はどの部門にすればいいんだろう?』という迷いがなくなりますし、受賞する調味料の数が増えれば、世間から注目していただける調味料の数も増えます。調味料選手権を通して、調味料業界の底上げにつながるといいなと思うんですよね」
初開催から12年――その間に起きた調味料の変化とは?
これまで、12回開催されてきた調味料選手権。毎回携わっているMICHIKOさんによると、回を重ねるごとに調味料業界の盛り上がりを感じると同時に、調味料そのものの変化にも気づくことがあるといいます。
「調味料選手権を始めた当初は、本当に“さ・し・す・せ・そ”に類する調味料がメインで。例えば、味も九州のお醤油は甘くて、京都のお醤油は薄口など、地域ごとに味が違ったりするのがまだ珍しい物として受け止められていた時代でした。
それが、回を追うごとに加工調味料が増えてきて、今ではそれが当たり前の存在になりましたね。一方で、お醤油やお味噌といった伝統調味料が近年見直されるという、原点回帰の兆しを感じることもあります」
さらに興味深いことに、「調味料は世相を反映して変化する」と話すMICHIKOさん。それはどういうことなのでしょうか。
「調味料は私たち人間にとって、一番身近な食に関わる物なので、社会的な状況が変われば好まれる物も移り変わります。
コロナ前は味も見た目もおしゃれで、いわゆる“映える”調味料が人気を集めていました。それが、コロナ禍以降は外出自粛をしいられる状況で料理をする人が増えたこともあり、例えばエスニックなどそれまで外食で食べることが多かったアジア料理の味を気軽に再現できる調味料や、1つ使うだけで味が決まる加工調味料、ちょっと贅沢な調味料といった物がランキングの上位に上がるようになりました。
味の傾向も、それまで10年近く辛系がブームだったのが、コロナ禍に入ってからは甘系というか、まろやかな味わいの物が多くなった気がします」
受賞商品で世相がわかる?過去3年間で総合1位に輝いた調味料
ではここで、過去3年間で総合1位を獲得した調味料を見ていきましょう。コロナ前後で選ばれる商品の違いにも注目です。
2019年 総合1位「雲丹醤油(うにしょうゆ)」(株式会社ロコファームビレッジ)
「この年はコロナの直前に決定したこともあり、ちょっとリッチな気分を味わえる調味料が人気でした。中でもこの『雲丹醤油』は、醤油蔵と共同開発した商品で、醤油自体のおいしさはもちろん、北海道産の新鮮なウニをふんだんに使っているのがポイントです。
このときは私たち審査員だけでなく、一般のお客様にも試食していただき、審査に参加してもらったのですが、生産者側のPRがすばらしかったのが印象的でした。食べておいしいだけでなく、商品に込められた想いまできちんと伝わったというか。作る人、売る人、食べる人の3つが、いい形でつながっての総合1位だと思います」
2020年 総合1位「LOVEPAKU SAUCE(ラブパクソース)」(ジョン事務所株式会社)
「コロナ禍になって初めての開催で、感染防止対策の観点から審査会には一般のお客様は入れず、食の専門家のみで審査を行いました。気軽に外食に行けない状況になって、自宅でアジア料理を作る人が増えたこともあってか、この年は1位の『LOVEPAKU SAUCE』に加えて、3位にもアジア系調味料がランクインしました。裏を返すと、それだけ私たちの食生活にアジア料理の味わいが根付いた証拠だと思います。
『LOVEPAKU SAUCE』は生の野菜やハーブなど、国産の材料にこだわり、手作業でしかできない工程も含めて丁寧に作られています。そういった点も、手作り感や健康志向が高まる中で評価されたのではないでしょうか」
2021年 総合1位「くんせいナッツドレッシング」(安本産業株式会社)
「コロナ禍になって2年目の昨年は、密を避けるためアウトドアやキャンプなど、外でのアクティビティが盛り上がりました。食もこのような背景に後押しされ、アウトドアを意識した商品が上位を占めたのが印象的でした。ただ、総合1位を受賞した『くんせいナッツドレッシング』は、燻製というアウトドアのアイディアを取り入れつつも、開発コンセプトは『野菜がモリモリ食べられる』なんです。
ナッツの食感もいいですし、燻製のパンチも加わって食べ応え十分。長年にわたっていろいろなドレッシングを開発し、そこで培った経験をお持ちの生産者だからこそ生み出せた商品だと思います。ドレッシングとしてだけでなく、お肉料理のタレにしたり、食材と和えたりと、これ1本で汎用性があるのも魅力です」
今年は調味料選手権史上初めて大阪で開催!
毎年11月3日に東京会場で最終選考と授賞式が行われてきた調味料選手権ですが、2022年は10月、大阪での最終審査会開催を予定しているそうです(2022年5月取材時時点)。
「今年は阪神梅田本店内にある『食祭テラス』にコーナーを設けて、一次専門家食味審査会を通過された商品を販売し、一次専門家食味審査会の食味審査結果と阪神梅田本店での販売実績、調味料選手権Instagramおよび投票会の結果をもとに2022年の受賞調味料を選定します。
大阪といえば“食の街”なので、味にこだわりを持つ大阪の方がどんな調味料を選ばれるのか、個人的にもすごく興味がありますね」
大阪での審査を終え、見事受賞した調味料は、調味料選手権Instagramで発表されるほか、10月27〜30日に東京・二子玉川にある「二子玉川 東急フードショー」で開催される販売&お披露目イベントも予定しているとのこと。
「二子玉川の会場では過去の受賞調味料も含めて、調味料選手権にゆかりのある調味料を多数紹介する予定です。
先程、調味料は世相を反映すると言いましたが、そうやって変化や進化を遂げた調味料が、反対に私たちの食生活に影響を与えることもあります。今って毎日多忙で、お料理作るのが大変というお母さん方も多いと思うんですけど、例えば、ちょっといい調味料を使うことで、いつもの料理が何倍もおいしくなったり、あまり手をかけずとも、かけるだけ、和えるだけで立派な一皿になったり。そうすると、作る側は楽だし、食べる側もおいしくてうれしい。
食卓をよりハッピーにできるのが、調味料の魅力でもあると思うんです。なので、いろいろな調味料に出合ってほしいですし、調味料選手権がその出合いのきっかけになるといいなと思っています」
<プロフィール>
MICHIKO
野菜ソムリエプロ・調味料ソムリエプロ
料理好きが高じて、大手企業の秘書から料理業界に転身。活動のテーマは、「食」と「健康」と「美」。日々の生活を楽しむ快適な食生活と、健康に暮らすことを目指し、幅広い分野で活動。調味料・野菜・スパイス&ハーブ・カレーのプロとして、講師、講演、企業セミナー、レシピ開発、調味料の紹介・批評・開発、コラムの執筆を行う。イベントの企画開催なども手掛け、テレビ、ラジオ、雑誌でも活躍中。
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