お祭りを粋に楽しむ!江戸前スタイルの祭衣装を着こなすコツとは?
古来、日本では「日常(ケ)」と祭礼や行事など行う「非日常(ハレ)」を区別し、生活に変化をつけています。ハレの日には普段とは違う衣装を選んだり、特別な食事を味わったりして楽しむ習慣があるように、お祭りに欠かせないのが祭衣装です。しかし、「選び方や着こなしのコツがわからない」という人も多いのではないでしょうか。
ここでは、江戸前スタイルの祭衣装の粋な着こなし方について、1910年創業で祭用品の老舗である「浅草中屋」の高橋節夫さんに伺いました。
祭衣装の役割と江戸前スタイルの基本
――祭衣装とは、どのような物を指すのですか?
高橋節夫さん(以下、敬称略):
お祭りで神輿をかついだり、山車(だし)を引いたりする氏子(うじこ:地域の住人でお祭りをする人を指す)たちは、そろいの袢天(はんてん)を着ていることが一般的ですよね。この袢天は、江戸時代から大工などの職人や火消しを中心に着用されていた印袢天(しるしばんてん)に由来します。
印袢天は、背や襟などに紋や屋号、記号などが染め抜かれ、着ている人がどこの地区のどんな職業で何の役割を担っているのかが一目でわかるような仕様になっています。職人にとっては、自分の身分や心意気を示すための、大切な衣装だったんです。
お祭りも同様に、町会ごとに文字や印の入ったそろいの袢天を着ることで、「あの人はどこの人だ」とわかるようになっています。会長や役員などの役目についている人は、袢天の色や印に違いを出すケースも多いですね。
こちらが印袢天。遠くから見てもひと目でわかるようなデザインになっている。
――祭衣装の基本の着こなしを教えてください。
高橋:
江戸前スタイルの基本は、鯉口シャツに腹掛(はらがけ)と股引(ももひき)を合わせ、袢天を着るもの。足元は雪駄(せった)やわらじ、地下足袋などをそろえ、手ぬぐいをはちまきにして頭にのせる人も多いですね。
この腹掛や股引は、本来、木場と呼ばれる貯木場で働く職人たちの仕事着でした。大きな神輿をかつぐお祭りでは、木場の職人に助っ人を頼むことがよくあったそうです。腹掛と股引姿で力強く神輿をかつぐ職人たちの格好良さから、祭衣装に取り入れられるようになったともいわれています。
――鯉口シャツとはどんなシャツですか?
高橋:
腹掛の下に着るシャツで、さまざまな色や柄の物があります。袖の長さは七分丈で、袖が手首側にいくほど細く絞られているのが特徴です。この袖口の形が、鯉の口に似ていることから鯉口シャツと呼ばれるようになりました。体にぴったりのサイズを選んで着こなすのがポイントです。
また、鯉口シャツと同じ腹掛の下に着用する物に、「ダボシャツ」があります。これは、名前のとおり、ダボダボでゆったりとしたシャツのこと。鯉口シャツとは異なり、袖の形もまっすぐになっています。
浅草歴35年、「浅草中屋」の高橋節夫さん。写真左は、鯉口シャツと腹掛。
こちらがダボシャツ。袖口や全体がダボっとしている。
――祭衣装に合わせる小物についても教えてください。
高橋:
祭の最中には、基本的に鞄を持つことはありません。そのため、財布や携帯電話といった、持ち物を入れるための小物入れが必要になります。人気なのは、肩から斜め掛けできて両手が空くポシェット型で、がま口やファスナーなど、いろいろなデザインがあります。ほかにも、たばこを吸わなくても、ファッションアイテムとしてたばこ入れを下げている人も多いですよ。
また、手ぬぐいは、本来の汗を拭くといった使い方以外にも、頭に巻いたり、袢天の内側に入れて襟の汚れを防ぐための半襟のように使ったりするなど、コーディネートに取り入れて楽しむこともできます。
写真左上から時計周りに、がま口型のポシェット、扇子、頭に巻く紐鉢巻、手ぬぐい、ポシェット、たばこ入れ。
祭衣装を粋に着こなすポイントは、ぴったり・タイトに・目立つ色
――祭衣装を着るときに気をつけることはありますか?
高橋:
祭衣装は、「ぴったり」「タイトに」が基本です。初めての人は、ぜひ専門店を訪れて、ご自身に合ったサイズを選んでいただきたいですね。実は、祭衣装は洋服のようなS・M・Lといったサイズ展開ではないんです。例えば、股引なら、男女別に身長や股回りに合わせて、約20種類ものサイズがあります。
祭衣装は、「自分にしか着こなせない」という物を選ぶのも醍醐味ですから、女性の場合は股引の丈を少し短くして足首を見せると、女っぷりが上がるともいわれますよ。
同様に、腹掛は襟元を隠すように、自分のサイズより1サイズ下を着るのが乙です。エプロンのように首回りが開きすぎると、「馬づら」と呼ばれるダサい着こなしの象徴に。首の部分が詰まっているほど格好いいので、フィットする物を選びましょう。
男女ともにサイズ展開は豊富!
――股引のはき方にもコツがありそうですね。
高橋:
股引は、袴のように2本の紐を締めてはきます。パンツとは異なり、股の部分がつながっているほうが前、分かれているほうが後ろです。はくときに気をつけたいのが、お尻にしっかりとフィットさせること。お尻部分がたるむと、とても格好悪いシルエットになってしまいます。
股引に両脚を入れ、お尻をくるんだら、紐を回すときに股のあいだにある穴に通しましょう。それから2本の紐をグッと持ち上げ、大げさに足踏みをして、四股を踏むのがポイント。こうすると、股引が体にピタッとフィットし、お尻の形もきれいにキマりますよ。
――袢天にはどんな帯を合わせれば良いのでしょうか?
高橋:
帯には、「角帯(かくおび)」「平ぐけ帯」「巻き帯」の3種類があります。角帯は男帯とも呼ばれ、長さが約4m。袢天だけでなく、男性の着物や浴衣にも使うことができます。平ぐけ帯は角帯に比べて幅・長さともに短く、長さは約3m。男女ともにどちらを選んでも問題ありませんが、女性の場合は、やはり短い平ぐけ帯のほうが巻きやすいようです。
一方、巻き帯は芯が入っていない簡易型の帯です。木綿の縮み素材やムラ染めなど、いろいろなタイプがあり、巻き方も簡単ですが、お祭りによっては正装のときに使えない場合があります。
いずれにしても、袢天に合わせる帯は、「いかに目立つか」がポイント。例えば、袢天が紺色なら、帯は反対色の黄色にするなど、普段の洋服にはない派手さを演出するのがお祭りの色の合わせ方です。
(写真左から)平ぐけ帯、角帯、巻き帯。
――帯の結び方には、どんな種類がありますか?
高橋:
最もポピュラーなのが、「貝の口」という結び方です。結び目から上に出た帯の先が、貝の口の形に似ていることからこの名が付きました。
帯の高さは、おなか側を低め、背中側を高めにして、横から見たときに前下がりになるように結ぶのがポイントです。結び目は背中の中心ではなく、あえて少しずらしたほうが粋です。
また、平ぐけ帯の結び方で人気なのが「神田結び」です。これは、鳶の人たちに好まれた結び方で、蝶々結びのように見える結び目の形が特徴です。貝の口とは異なり、結び目の位置は体の前側になります。
――祭衣装といえば、手ぬぐいもポイントですね。
高橋:
お祭り用手ぬぐいは、一般的な手ぬぐいとはサイズが違うんです。お祭り用手ぬぐいは「長尺」といって、一般的な手ぬぐいよりも15cmほど長くなっています。
手ぬぐい選びのコツは、思い切り明るい色味にすること。頭にのせる場合、顔の近くに暗い色が来ると表情が沈んで見えてしまいますが、華やかな色合いや柄のある手ぬぐいを選ぶと明るく、元気なイメージになりますよ。
200種類程がそろうという、浅草中屋の手ぬぐいコーナー。
男性の祭衣装の着こなしポイント
袢天を着て帯を締めるときには、おなか側が低く、背中側が高くなる「前下がり」を意識します。結び目の位置は、背中の中心から少しずらすのが粋に見せるポイントです。
袢天のVゾーンはゆとりを持たせ、腹掛はだらんと下がらないように首元までキュッと詰めます。腹掛の色に合わせた股引をスリムにはくのが、お祭りスタイルを格好良く見せる基本です。
女性の祭衣装の着こなしポイント
派手な柄が描かれた鯉口シャツは、お祭り気分を一層盛り上げます。あえてワンサイズ下をタイトに着た腹掛に体にフィットした股引を合わせれば、江戸の職人姿を彷彿とさせるお祭りスタイルの完成です。
ショートヘアの女性の場合は、手ぬぐいを帽子のように巻く「喧嘩かぶり」がおすすめ。ロングヘアなら髪はお団子にまとめ、うなじを出すようにすると艶やかです。
お祭りは人生に彩りとメリハリを与えてくれる
――祭衣装を着ると、お祭りがもっと楽しくなりそうです。
高橋:
祭衣装の楽しさは、普段の洋服選びとは異なる色や柄を、好きなように着られることだと思います。お祭りは、日常とは違う自分を思い切りアピールできるハレの場。年齢や性別、立場などを超えた、人と人とのつながりも魅力です。お祭りを楽しむことで、仕事や家庭に加えて、生活にメリハリが生まれると思いますよ。
また、お子さんのいる人は、子供の祭衣装も楽しんでもらいたいですね。同時に、大人がビシッとキメたお祭りスタイルは、子供の目にもとても魅力的に映ります。祭衣装を粋に着こなす大人の姿は、子供にとって身近なヒーロー。お祭りは、普段の姿とは違う大人の格好良さを、子供たちに見せる機会でもあるんです。
――年齢とともに祭衣装のこだわりも変わってきそうですね。
高橋:
鯉口シャツや手ぬぐいなどは、何度かお祭りに参加するうちに、違うタイプの物が欲しくなるようですよ。また、たばこ入れなどの小物は、年齢が上がるほど質の良い物が似合うようになってきます。それを見て若い人や子供たちは、「格好いいな」「あんな大人になりたい」と憧れるんです。
お祭りとともに、祭衣装の着こなし方や所作といった粋な姿も、そうやって受け継がれてきたのでしょうね。
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浅草中屋 本店
住所 | 東京都台東区浅草2-2-12 |
営業時間 | 11:00~16:00(土日祝は17:00まで) |
定休日 | なし |
URL | https://www.nakaya.co.jp/ |
※2021年7月に取材した記事です。
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