国内の第一人者・西村昭彦さんが語るクロスミントンの魅力
クロスミントンというスポーツをご存じですか?
クロスミントンは、バドミントンやテニス、スカッシュの要素を盛り込んだ新しいスポーツ。2002年にドイツで誕生し、今ではヨーロッパを中心に世界40ヵ国以上で楽しまれています。
西村昭彦さんは、元々はバドミントンのトップ選手であり、国内におけるクロスミントンの第一人者。2020年12月現在、日本ランキング1位であり、2018年のジャパンオープンではシングルス優勝、2019年に行われた世界選手権では、ミックスダブルスで日本人初優勝の成績を収めました。そんな西村さんに、クロスミントンを始めるきっかけや、このスポーツの魅力を教えていただきました。
当時の競技人口はわずか200人!クロスミントンとの出合いとは?
――元々、バドミントンのトップ選手として活躍していらっしゃいましたが、どのようなきっかけでクロスミントンに出合ったのでしょうか。
西村さん(以下、西村):
社会人になってからは、adidas Badmintonの国内総代理店で商品企画を行いつつ、バドミントン選手としても活動していました。2013年、会社でバドミントンのイベントをやろうという話が持ち上がり、参考のためにYouTubeで海外のバドミントン映像を観ていたんです。
そのとき、たまたまビーチで「バドミントンのようなもの」をやっている動画を見つけました。「何だ、これは?」と思ったものの、そのときはおもしろいスポーツがあるなぁっていうくらいで。
――それがクロスミントンだったんですね。
西村:
それからほどなく、会社が日本のバドミントン事業から撤退することになってしまったんです。進路を考えていたとき、ふと思い浮かんだのが以前に見つけた動画でした。あらためて調べたところ、クロスミントンというスポーツであることがわかって。当時の日本は、クロスミントンの協会こそ存在していたものの、競技人口は全国で200人程度という状況でした。
クロスミントンはラケットとシャトルボールさえあれば、いつでもどこでも遊べます。試合じゃなければ、必ずしもコートを作る必要もないですし。海外では公園やビーチ、雪山といった屋外で遊んでいたりするんですよ。クラブイベントなどで、道具や体にブラックライトで光るペイントをして、暗闇の中でプレーする「ブラックミントン」も盛んに行われています。
そういうことを調べているうちに、この競技を日本に広めたいと思って、すぐにクロスミントンが生まれたドイツに行ったんです。
――すごい行動力ですね!
西村:
まずは、本場のクロスミントンを体験してみようと思って(笑)。ドイツは1ヵ月ほど滞在しましたが、世界王者から直接指導を受ける機会にも恵まれて、一からクロスミントンを学ぶことができました。
初心者でも親しみやすいクロスミントンの魅力
クロスミントンは、「屋外でも風の影響を受けずに楽しめるバドミントン」を目指して考案されました。最大の特徴は、ネットを必要としないこと。公式の試合では1辺が5.5m四方のコートを12.8mの距離を挟んで向かい合わせ、スピーダー®と呼ばれるシャトルボールをラケットで打ち合います。相手のコートにシャトルボールを落とすか、相手がミスをすれば1ポイントが入り、1ゲーム16点制で、2ゲーム先取すれば勝利です。
ネットがないためラリーが続きやすく、重みのあるシャトルボールは軽く打ってもよく飛び、初心者でもすぐに楽しめます。シャトルボールの中央には穴が開いていて、打ち合う際に打ち上げ花火のような「ヒュー」という音が出るところも楽しいポイント。上級者のゲームになると、時速280キロを超える速度で低空をシャトルボールが飛び交い、迫力満点です。
――バドミントンやテニスに比べると難度がぐっと下がるのも、初心者にとってはうれしいところですね。
西村:
クロスミントンは、ラケットのフェイス(ボールを打つ編み目の部分)にスピーダー®が当たりさえすれば、弱い力でも遠くまで飛ばすことができます。フェイスはバドミントンよりも大きいので当てやすいですし、持ち手も短いのでコントロールしやすいんです。球の回転や失速を気にする必要もないですから、とてもシンプル。初心者の方でも、ちょっと練習すればすぐに遊べるようになります。
――クロスミントン選手としての活動には、バドミントン選手としての経験が活かせるのでしょうか?
西村:
クロスミントンを始めて以降、国内では比較的早い段階でランキング1位になることができたんです。でも、海外の選手と対戦したら、打ち方や戦い方が国内とは違って、まったく歯が立たず…。それまで自分のプレーには多少なりとも自信を持っていたので、かなりショックでした。
それ以降、海外の選手の戦い方を研究したり、プレースタイルの改善を図ったりすることで、2019年の世界選手権では、ミックスダブルスで日本人初優勝ができました。
――クロスミントンを始める方は、バドミントン経験者が多いのですか?
西村:
クロスミントンの選手には、バドミントンやテニス、スカッシュなど、いろいろなバックグラウンドを持った人がいて、それぞれプレースタイルが違うんです。日本だと僕みたいにバドミントン出身の選手が多いのですが、海外はテニス出身の選手が圧倒的に多かったりします。
強くて速い球でラリーを打つのが得意なテニス出身の選手に対し、バドミントン出身の選手は上から打つスマッシュが得意。また、スカッシュ出身の選手はラケットの形がクロスミントンに近いこともあって、ラケット操作が上手な印象があります。
実は、クロスミントンの戦術って、まだ確立されていないんです。海外の選手でも、大会で会うごとにプレースタイルが更新されていますし、僕ら日本人選手も、日本のスタイルでどうやって世界と戦っていくか、日々研究を続けています。いろいろなプレースタイルに対応するのは難しい反面、おもしろいところでもありますね。
今なら日本代表になるチャンスがある!?
――クロスミントンの出合いから6年が経ちましたが、日本の状況は変わりましたか?
西村:
2014年の競技人口は200人程度でしたが、2020年12月現在で約3,000人まで増加し、日本はアジアでは最もクロスミントンが盛んな国となりました。とはいえ、まだまだ知名度も競技人口も少ないスポーツです。ただ、だからこそのメリットもあるんです。
バドミントンやテニスの場合、海外で活躍できるのはほんのひと握りですが、クロスミントンなら今から始めても、日本代表として世界に行くチャンスがあります!昨年ハンガリーで行われた世界選手権には、初参加者を含め、50名の日本人選手が参加しました。
クロスミントンって、世界的にもまだまだマイナーなスポーツで、もっと広めたいという気持ちの熱量がどの国の選手も強いんです。なので、情報交換も盛んですし、選手同士の仲もすごく良くて。各国の選手たちと協力し合いながらレベルアップを目指すというのは、ほかのスポーツにはあまりないと思います。そういうところもクロスミントンの魅力のひとつです。
――国内の普及活動にも力を入れていらっしゃいますが、クロスミントンを体験したいと思ったら、どうしたらいいのでしょうか?
西村:
気軽に始めるなら、まずはラケットとスピーダー®を購入して、遊んでみるのがいいと思います。ラケット2本とスピーダー®は、セットで6,000円弱くらいからあります。
遊ぶときにひとつだけ注意してほしいのが、プレーヤーの距離をしっかり保つこと。スピーダー®は想像以上に遠くまで飛ぶので、近いとコントロールがうまくできず、ラリーも続かなくなってつまらないと思います。目安として、12mくらい離れるのが大事です。
日本クロスミントン協会にお問い合わせをいただければ、お住まいの近くのクラブチームをご紹介しますし、協会やチームが定期的に体験会を開いています。本格的にやってみたい方は、そういった形でのアプローチをおすすめします。
――今後の目標をお聞かせください。
西村:
日本国内のクロスミントンの価値をもっと上げていきたいです。日本の多くの公園では、ラケットやボールを使うスポーツが禁止だったりして、せっかく外でも気軽にできるスポーツなのに場所がない。普及のためには、環境の整備も必要だと思っています。
選手としては、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年2月に予定されていた第1回アジア選手権大会をはじめ、多くの大会が中止となってしまいました。でも、来年はクロアチアで世界選手権大会が行われる予定です。前回大会はミックスダブルスで優勝したのですが、もちろんそこでの連覇も狙いつつ、最大の目標はシングルスでの優勝です。そして、世界ランク1位を獲得したいと思っています。
<プロフィール>
西村 昭彦(にしむら あきひこ)
クロスミントン日本代表選手。2019年の世界選手権ではミックスダブルス優勝。2020年現在、日本ランキング1位。adidas Badmintonのセールス&プロモーションを担当するかたわら、クロスミントン選手として活動を行う。クロスミントンの普及活動にも力を入れている。
2020年12月に取材を行いました。
執筆者プロフィール