おにぎりってスゴイ!あらためて見直そう、おにぎりの魅力
子供から大人まで、日本人のソウルフードともいえる「おにぎり」。でも、あまりに身近すぎて、その魅力に気付いていない方も多いかもしれません。いつも何気なく食べているおにぎりには、日本人でも意外と知らないおいしさや楽しさがギュッと詰まっています。
普段の生活から見落とされがちなおにぎりの魅力に加え、おにぎりの豆知識やもっとおいしく食べる方法などを、一般社団法人おにぎり協会の代表理事を務める中村祐介さんに伺いました。
目次
知っているようで意外と知らない!おにぎりとは?
――おにぎりの定義とは何でしょうか?
中村さん(以下、敬称略):
おにぎり協会では、「ご飯つぶとご飯つぶがくっついた状態で、片手でパクッと食べられる物」をおにぎりと考えています。おにぎりは、非常に多様性に富んだ食べ物です。海苔の代わりに別の物で巻いたり、味噌や醤油を塗ったりしてもいいですし、何も巻かなくてもいい。形も具材も自由ですし、具材なしでも問題ありません。
――「おにぎり」と「おむすび」に違いはあるのですか?
中村:
言葉としては「おにぎり」のほうが古く、奈良時代に編纂された「常陸国風土記」に「握飯(にぎりいい)」という記述があります。対して「おむすび」は、宮中の女性たちが使っていた言葉だといわれています。また、「結ぶ」が縁起のいい意味を持つことから、神社では「おむすび」と呼ばれることが多いようです。
ただし、現代においては「おにぎり」も「おむすび」も基本的には同じであり、呼び方の違いは個人の好みや地域の習慣などによるものだと思います。
――日本でおにぎりが生まれたのはいつ頃なのでしょう。
中村:
稲作が日本に伝わった、弥生時代頃といわれています。石川県中能登町にある弥生時代の住居跡からは、日本最古の「おにぎりの化石」が発掘されているんですよ。正確には炭化した細長い米の塊で、形状などから何らかのお供え物であったと考えられます。その後、平安時代になると、貴族が宴の際に、「屯食(とんじき)」という蒸したもち米をちまきのように握り固めた物を従者に振る舞ったという記述が残っています。
また、戦国時代には、おにぎりが兵糧として用いられていました。炊いたお米を干して乾燥した状態で持ち歩き、そのまま噛んだりお湯で戻したりして食べていたそうです。
――時代の移り変わりとともに、おにぎりも変化しているのですね。
中村:
現在のようなおにぎりの形になったのは、江戸後期からです。戦(いくさ)のない平和な世の中になり、人々が旅をするようになったため、おにぎりがお弁当として食べられるようになりました。現在ではスタンダードな海苔巻きおにぎりも、アサクサノリの養殖が始まった江戸時代に誕生した物です。
同時に、おにぎりは農家の食事でもありました。忙しい農作業の合間に、田んぼでそのまま食べられるモバイルフード(携帯食)として重宝されていたようです。
――最近ではご飯を握らない「おにぎらず」など、ユニークな物も登場しています。
中村:
ご飯とご飯がくっついているので、手で握っていなくても「おにぎらず」は立派なおにぎりです。最近では、おにぎらずの進化形ともいえる「パタパタおにぎり」も流行しています。作り方は簡単で、全型サイズの海苔を十字に4分割したスペースに、それぞれご飯や具材を置き、1ヵ所だけ中心に向かって切り込みを入れ、順番にパタパタと折りたたんでいくだけ。おにぎらずと同様に、カットしたときの断面がきれいなので、SNSでも人気です。
すごいぞおにぎり!世界にも広がるおにぎりの魅力に迫る
――おにぎりの魅力とは、ずばり何でしょうか?
中村:
一口におにぎりといっても、味や形、食べ方は地域ごとに異なります。自由度の高さとバリエーションの豊かさは、おにぎりの大きな魅力です。
例えば、江戸時代に北前船の中継地であったことから昆布食文化が盛んな富山県には、海苔ではなく、とろろ昆布を巻いたおにぎりがあります。また、北関東では生味噌を塗ったおにぎりが多いですね。おにぎりの海苔も、関東では焼き海苔が主流ですが、関西では味付け海苔をよく使います。
ユニークな物に、わかめの産地として有名な三陸地方の特に宮城県で親しまれている「わかめご飯おにぎり」がありますが、これはおにぎりの具がおにぎりなんです。わかめご飯で作った小さなおにぎりを海苔でくるみ、その上からさらにわかめご飯で包んでいます。
富山県のとろろ昆布おにぎり
宮城県のわかめご飯おにぎり
――おにぎりには、その土地のおいしい物が詰まっているのですね。
中村:
そうです。おにぎりには各地の食文化が色濃く反映されています。丸や三角といったおにぎりの形も、地域によってさまざま。寒さの厳しい東北地方では、火をあてやすく熱が通りやすい円盤形のおにぎりがよく見られます。また、町民文化が栄えた関西地方では、観劇の合間に食べる幕の内弁当に入れたご飯の形から、俵形のおにぎりが広まったといわれています。
――子供から大人までみんなで食べられるのも、おにぎりの良いところですね。
中村:
その理由は、おにぎりの食べやすさにあります。サイズや具材を工夫すれば離乳食を終えたばかりの赤ちゃんから食べられますし、箸などの道具を使わないので体にハンデがある方でも食べやすいでしょう。
そして、多くの人にとって身近であるからこそ、おにぎりは最高のコミュニケーションツールになるんです。思い出のおにぎりや好きな具材といったテーマなら、世代や立場が違っても同じように話ができますよね。
――糖質制限の流行によって、おにぎりが炭水化物の塊といわれることもありますが…。
中村:
実は、おにぎりはダイエットにもおすすめなんです。ご飯が冷めると、炭水化物の一部が食物繊維に似た「レジスタントスターチ」という消化しづらいデンプンに変わります。レジスタントスターチは消化吸収をゆるやかにして血糖値の急上昇を防ぐとともに、腸内環境の改善を促す働きがあります。同じ白米を食べるなら、熱々のご飯よりも冷えた状態のおにぎりのほうが、腹持ちが良くダイエット効果も高いといえるでしょう。
――おにぎりは海外でも知られているのですか?
中村:
おにぎりは日本人にとってあまりにも身近な存在であったため、これまでは海外に向けて積極的なアピールがされてきませんでした。海外の人たちから見れば、「日本のアニメや映画の中に登場する謎の食べ物」だったんです。しかし近年では、和食人気の高まりとともに、おにぎりの認知も徐々に広まりつつあります。世界の各地で、現地の方が運営するおにぎり店もどんどん増えています。
具材や味付けが自由なおにぎりは、現地の食文化に合わせてアレンジしやすいことに加え、欧米に多いベジタリアンやヴィーガンの方でも食べやすいというメリットがあります。特に、動物性食品を一切摂取しないヴィーガンの場合、鰹出汁をベースにした和食を食べることができません。しかし、おにぎりならその問題もクリアできます。以前、海外でおにぎりのデモンストレーションを行った際、ヴィーガンの方に「やっと和食を味わえた!」と喜んでいただいたことがありました。おにぎりを通して和食への入り口を広げることができれば、とてもうれしいですね。
食べ方、作り方もいろいろ。おにぎりをもっと楽しもう!
――最近のおにぎりのトレンドを教えてください。
中村:
2020年頃から急激に人気が高まっているのが、「ごちそう系おにぎり」です。外食の機会が減り、おうち時間が増えたことで、「ちょっと豪華なおにぎりを家でゆっくり楽しもう」という流れが生まれました。SNSの普及も、人気に拍車をかけています。
また、同時期に登場したのが「非接触型おにぎり」です。感染症拡大防止の観点から、直接手でふれずに食べられるスティック型のおにぎりが注目を集めています。
――おにぎりをおいしく作るポイントは?
中村:
言葉にすると矛盾するようですが、おにぎりを作るときには“握らない”ことがポイントです。ギュッと握るとご飯がつぶれて、冷めたときに硬くなってしまいます。適度に空気を含むように、力を入れず、ふわっと軽く形を整えましょう。
ご飯が熱くて手で持てない場合は、まな板やテーブルにラップフィルムを敷いてご飯をのせるといいですよ。ラップフィルムでご飯に直接ふれないようにしながら、両手で三角形を作るように左右から挟んで形を整え、真ん中に具材を置いてからラップフィルムごと持ち上げて軽く包むと、きれいなおにぎりを作ることができます。
――お米の選び方にコツはありますか?
中村:
どんなおにぎりを食べたいかによって、お米の選び方は変わります。例えば、具材の味が濃い場合、それを支えられるようにどっしりとしたお米を選ぶのか、またはあえてサッパリした風味のお米にするかは、好みの分かれるところですよね。食感についても同様で、モチモチと弾力のあるお米もあれば、シャキシャキした歯応えのお米もあります。具材とお米をしっかり絡ませたいなら粒が小さ目の品種を、お米のプチプチ感を楽しみたいなら大きい粒の品種を選ぶといいでしょう。
また、おにぎりを最もおいしく食べられるのは、秋の新米の季節です。普段食べているお米とは違う品種の新米でおにぎりを作ってみると、新しいおいしさに出合えるかもしれませんよ。
――おすすめの具材やアレンジを教えてください。
中村:
自分で作るおにぎりなら、具材は何でもありです。たくさんの具材をビュッフェのように並べて、家族みんなで手巻き寿司のように好きなおにぎりを作るのもいいですね。
あとは、晩御飯で余ったおかずなどをおにぎりの具材にするのもおすすめです。たくあんや紅しょうがなど、冷蔵庫に残りがちな食材も、おにぎりにすれば無駄なくおいしく食べられます。食事にするには量が物足りない残り物も、おにぎりの具材として考えれば豪華ですよね。手間もかからず、フードロスの削減にもつながります。
――コンビニおにぎりのおいしい食べ方はありますか?
中村:
一見、同じようなコンビニおにぎりですが、実は各社ごとに味の違いがあります。おなかと時間に余裕があるなら、同じ具材でコンビニおにぎりの食べ比べをしてみてはいかがでしょうか。鮭やツナマヨなど定番の具材であるほうが、違いがわかりやすいと思います。家族や友人同士で、どの味が好きかを話し合うのもおもしろいですね。
このほか、おにぎりを半分食べて残りをお好みのスープに入れれば、雑炊風にアレンジすることもできます。スープもおにぎりといっしょにコンビニで買えるので、気分によって味の組み合わせを変えてみるのもいいでしょう。「少しの量で満腹感が欲しい」という場合にもおすすめです。
誰かのためを思って握るのがおにぎり
――おにぎり協会ではどのような活動をしているのですか?
中村:
私たちの大きなミッションは、おにぎりを通じて和食文化を国内外に広く伝えていくこと。そのために、さまざまな情報発信やイベント参加、企業・団体とのコラボといった活動をしています。2015年のミラノ万博をはじめ、カタールやカナダなど、海外でのデモンストレーションも積極的に行ってきました。日本が誇る「ファストフード」であり「スローフード」であり「ソウルフード」。そんなおにぎりを、文化的背景も含めて国内外に普及させていきたいと活動しています。
――最後に、読者へメッセージをお願いします!
中村:
「握る」という過程を経て生まれるおにぎりには、人の思いをのせることができます。それは、素手やラップフィルムにかかわらず、おにぎりが誰かのために作る料理だから。子供の頃、お父さんやお母さんが作ってくれたおにぎりが思い出に残っている人も多いのではないでしょうか。たとえ自分のお弁当のために作ったとしても、そのおにぎりは未来の自分のために握った物です。
日常食として長く愛されてきたおにぎりには、たくさんの気持ちと日本の良いところが詰まっています。具材や形に決まりがないのがおにぎりです。いろいろなおにぎりを味わったり、自分で作ったりして、おにぎりを自由に楽しんでみてください。
<プロフィール>
中村 祐介(なかむら ゆうすけ)
1975年生まれ。株式会社エヌプラス代表取締役、一般社団法人おにぎり協会代表理事。2015年ミラノ国際博覧会の日本館にて、おにぎりをテーマとしたイベントに出演。年間3,600個以上のおにぎりを食べるIT社長としてテレビ番組に出演するなど、おにぎり文化の普及活動を精力的にこなす。
一般社団法人おにぎり協会
※2021年8月に取材しました。
執筆者プロフィール