相続の順番とは?ケース別の法定相続人や相続分を紹介
親が亡くなったとき、その配偶者や子供が遺産の相続人になることは、多くの人がなんとなく理解していることでしょう。しかし、この知識が「なんとなく」のまま相続に直面すると、「思っていたのと違った!」ということになりかねません。
遺産を相続する側も遺す側も、将来の相続トラブルを回避するために、相続の仕組みについて知っておきましょう。
目次
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1.法定相続人は具体的に誰のこと?
2.法定相続人が受け取れる遺産の割合は?
3.具体的にいくらもらえる?ケース別シミュレーション
3-1.独身で、父母と兄が1人いる人が亡くなった場合
3-2.配偶者と子供2人、兄1人がいる人が亡くなった場合
3-3.既婚が配偶者と死別、子供3人と姉1人がいる人が亡くなった場合
3-4.離婚して子供2人を育てている人の元配偶者(現在の家族は姉1人と父)が亡くなった場合
3-5.離婚して子供2人を育てている人の元夫が亡くなり、その元3-6.夫が再婚した妻とのあいだに子供1人がいる場合
4.遺言があっても法定相続人は遺産がもらえる?
5.法定相続人が遺産を相続したくない場合はどうする?
6.遺産は法定相続以外の割合で分割することもできる
7.法定相続人や法定相続分は、家族間でもめないための指針
法定相続人は具体的に誰のこと?
民法では、遺産を相続する権利を持つ「法定相続人」が誰なのかを明確に定めています。法定相続人は、基本的に配偶者と、子供や孫などの血縁者。特に配偶者は常に法定相続人となります。
その上で血縁者について、第1順位から第3順位まで相続する順位が定められており、このうち最も順位が高い人(同じ条件の血縁者が複数いる場合は複数人)が法定相続人となります。
順位は次の通りです。
・第1順位
血縁者の中で、最も順位が高いのが子供と孫です。この場合の子供には、養子も含まれます。子供の年齢や性別にかかわらず、複数いる場合は、全員が同じ立場で第1順位の法定相続人です。
・第2順位
第2順位は直系尊属(親や祖父母)です。父母が両方いる場合は2人、どちらかの場合は1人が法定相続人です。なお、祖父母は両親がすでに他界している場合のみ、法定相続人となります。
・第3順位
第3順位は、兄弟姉妹です。兄弟姉妹が複数いる場合、年齢や性別にかかわらず、全員が同じ順位での法定相続人となります。
法定相続人が受け取れる遺産の割合は?
民法では、法定相続人ごとに、相続できる遺産の割合(法定相続分)を定めています。遺言書などがない場合、この割合に従って遺産を分配することになります。
それぞれの法定相続人の割合は下記のとおりです。
■法定相続における分配割合
配偶者 | (1-血縁者が相続する割合) |
子供(第1順位) | 2分の1 |
親や祖父母などの直系尊属(第2順位) | 3分の1 |
兄弟姉妹(第3順位) | 4分の1 |
つまり、配偶者と子供1人が相続人になる場合は、それぞれ2分の1ずつ相続することになります。配偶者と親が1人ずつの場合は、配偶者が3分の2、親が3分の1です。
また、その順位に該当する法定相続人が複数いる場合は、その人数で割ることになります。例えば、配偶者と子供2人で相続する場合は、配偶者が2分の1、子供は残りを2人で分けることになるので、それぞれ4分の1ずつです。兄弟姉妹が3人いる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹は残りの4分の1を3人で割り、12分の1ずつ相続します。
なお、配偶者がいない場合、相続順位が一番高い人だけが相続人になります。この場合は、配偶者の分を含めた全額を該当する法定相続人が相続します。
具体的にいくらもらえる?ケース別シミュレーション
法定相続人と法定相続分について、具体的に誰がいくらもらえるのか、ケース別に見てみましょう。すべてのケースで、遺産は500万円とします。
独身で、父母と兄が1人いる人が亡くなった場合
独身で子供もおらず、父母と兄がいる人が亡くなったとします。配偶者はいませんから、最も相続順位が高いのは父母です。
そのため、法定相続分どおりの相続を行う場合、父母が250万円ずつ相続します。兄は法定相続人ではありません。
配偶者と子供2人、兄1人がいる人が亡くなった場合
配偶者と子供2人、兄1人がいる人が亡くなった場合、法定相続人は、配偶者と子供2人です。この場合、兄は法定相続人ではありません。
子供の法定相続分は2分の1ですから、法定相続分どおりの相続を行う場合、250万円です。これを2人で分けるため、1人125万円ずつです。また、配偶者は残りの250万円を相続します。
既婚だが配偶者とは死別、子供3人と姉1人がいる人が亡くなった場合
配偶者と死別している場合は、血縁者のみが法定相続人です。子供が3人いるため、姉は法定相続人にはなりません。
法定相続分どおりの相続を行う場合、全額を子供が相続することになるため、500万円を3人で均等に割り、1人約166万円ずつ相続します。
離婚して子供2人を育てている人の元配偶者(現在の家族は姉1人と父)が亡くなった場合
離婚した配偶者は、法定相続人にはなれない一方、子供が第1順位の法定相続人であることに変わりはありません。
そのため、法定相続分どおりの相続をするのであれば、全額を子供2人が相続することになります。500万円を2人で割り、1人250万円ずつ相続します。なお、これはどちらが親権を持っていた場合でも同様です。
離婚して子供2人を育てている人の元夫が亡くなり、その元夫が再婚した妻とのあいだに子供1人がいる場合
離婚した配偶者は法定相続人にはなれず、現在の配偶者(再婚した妻)が法定相続人になります。一方、子供は全員が法定相続人です。
そのため、法定相続分どおりの相続を行うのであれば、まず250万円を現在の妻が相続します。子供の法定相続分である残り250万円を、前妻の子供2人と現在の妻との子供1人の3人が約83万円ずつ相続します。
ただし、現在の妻とのあいだの子供が、妻の連れ子だった場合、養子縁組をしていないと子供は法定相続人にはなれません。この場合は、250万円を現在の妻が相続し、前妻との子供2人が125万円ずつ相続します。
遺言があっても法定相続人は遺産がもらえる?
法的な効力を持った遺言がある場合、原則として遺言に従った遺産分割が行われます。ただし、法定相続人には「遺留分」が認められています。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の「配偶者」「子供」「親(直系尊属)」が請求することができるもので、配偶者と子供は本来の法定相続分の2分の1、親は本来の法定相続分の3分の1が遺留分となります。
例えば、血縁以外の第三者にすべて相続させるという遺言があったとしても、法定相続人が遺留分を請求することが可能です。
法定相続人が遺産を相続したくない場合はどうする?
法定相続人であっても、遺産を相続したくない場合もあるでしょう。相続は、プラスの資産もマイナスの資産も一括して行うことになるため、資産よりも借金が多い場合など、相続をすることが不利益になるかもしれません。
このような場合、遺産の相続放棄が可能です。法定相続人に相続放棄をした人がいた場合は、相続順位が繰り下がります。例えば、亡くなった人に配偶者と子供と親がいて、子供が相続放棄した場合は、配偶者と親が法定相続人となります。
ただし、子供が2人いて、そのうちの1人だけが相続放棄した場合は、配偶者と相続放棄をしなかった子供1人が法定相続人となります。
遺産は法定相続以外の割合で分割することもできる
たとえ遺言がなかったとしても、相続人全員の同意があれば、法定相続分以外の割合で遺産を分割することもできます。誰がどのように遺産を相続するかを決めた書類を、「遺産分割協議書」と呼びます。
遺産の分割は、相続人全員で同意したとしても、後々もめる原因にもなりかねないものです。遺産分割協議書を作成し、全員がそれに同意していることを書面で残しておくことが大切です。
法定相続人や法定相続分は、家族間でもめないための指針
法定相続人や法定相続分は、民法で決められた相続に関する権利です。遺産は、相続人同士の話し合いや、亡くなった方の遺言によって、法律に捉われない分割をすることも可能です。しかし、相続は親族トラブルの原因になるものですから、法律によって一定の指針や遺留分の確保が行われています。
家族間でもめないためにも、あらかじめ今回紹介した法律を理解しておきしましょう。
【監修者プロフィール】
吉田 祐基
ライター・編集者。AFP/2級FP技能士。マネー系コンテンツの制作が得意。これまで東洋経済オンライン(東洋経済新報社)、日本経済新聞(日本経済新聞社)、Finasee(想研)などで企画・編集・執筆を担当。
執筆者プロフィール