リモートワーカーを悩ませる腰痛にならないための暮らし方
厚生労働省が2016年に行った「国民生活基礎調査」によると、腰痛は日本人全体の約4分の1が悩まされているというデータがあり、今や国民病といっても過言ではありません。 さらに、新型コロナウイルスの影響で外出自粛期間が続いたこともあり、長時間デスクに座りっぱなしでのリモートワークや運動不足が引き金となって、 ますます腰痛の症状が悪化してしまったという人も増えているのではないでしょうか。
少しでも腰痛を予防・改善する方法について知りたいというビジネスパーソンのために、腰痛のリスクを高める動きや習慣のほか、腰痛を緩和するストレッチについて、 カイロプラクティック理学士の檜垣暁子先生に教えていただきました。
目次
腰痛につながる筋肉の痛みや凝りはなぜ起こる?
一口で腰痛といっても、個人によってその感じ方は異なります。ぎっくり腰の呼び名で知られる「急性腰痛症」のような激痛ならばわかりやすいかもしれませんが、 明確な痛みはなくとも、なんとなく腰がスッキリしないと感じる人もいるのではないでしょうか。実はそんな違和感こそ、腰痛のサインなのです。
「腰痛の悩みを抱えている人には、共通点として腰、背中、お尻、太もも、ふくらはぎといった部位に、過度な筋肉の緊張があります。 ここで指す緊張とは、筋肉が硬くなって凝っている状態のこと。腰の痛みに対する自覚症状がなくても、これらの部位を自分の指で実際に押してみるとわかりやすいでしょう。 明らかに硬かったり、イタ気持ちいいと感じたりするような場合も実は緊張状態にあるため、腰痛予備軍と考えられるのです」(檜垣先生)
では、なぜ筋肉の凝りは起きてしまうのでしょうか?
「人は、年齢を重ねることで筋力が衰えていきます。背骨を支える筋力が弱くなることのほか、正しくない体の使い方や長年の癖などで、 使う筋肉の動きが決まってしまう(可動域が狭くなる)ことが原因です。例えば、日常的に足を組む癖があると、足を組んだ状態で体を支える筋肉がずっと働くことになります。 普段、何気なく行っている動作でも、そうやって使われ続けた筋肉は血流が滞ることで疲れやすくなり、徐々に硬くなっていきます。結果、筋肉の部分的な緊張や凝りが起こりやすくなるのです」(檜垣先生)
こんな動きに注意!腰痛になりやすい動作と習慣
ある日突然、腰が痛くなった――腰痛の自覚がある人もない人も、一度はこんな話を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
痛みを感じながらも普段どおり動ける状態から、起き上がることもできないくらい重症のものまで、症状の差はあるものの、ちょっとした動きがきっかけで腰痛に見舞われることは珍しくありません。
続いては、日常生活に潜む腰痛を引き起こしやすい動作や習慣について見ていきましょう。
長時間同じ姿勢をしていた後の急な動き
本来人間は、まっすぐに立っているときの背骨が、横から見てS字カーブを描くような状態が正しい姿勢。このカーブがあることで、上半身の重さが分散され、腰にかかる負担が軽くなっています。
「長時間座りっぱなしでいると下肢の血流が滞り、ふくらはぎや太ももの筋肉の働きが低下します。そして、その負担が腰にかかって痛みを引き起こすことがあるのです。 また、長時間立ったままの姿勢でも、重心のバランスが偏っていると、より腰への負担が大きくなり、痛みを感じやすい状態になります」(檜垣先生)
長時間座っていた後の動きとして、「机の下に置いてある荷物を座ったまま取ろうとしたとき」や「椅子から立ち上がった直後に体を楽にしようと腰を反らしたとき」などは、要注意。
ふと動いた瞬間に、腰痛を引き起こしやすい状態になっているそうです。
「この原因は、硬くなっていた筋肉に突然引き伸ばされる無理な動きが入ったことで、筋肉の繊維が傷んでしまうから。
ぎっくり腰のような急性腰痛を引き起こしてしまう場合もありますので、長時間同じ姿勢で座っていた後は、ゆっくり動き出すように注意しましょう」(檜垣先生)
体に合わない机や椅子を使っている
デスクワークで使う、机や椅子にも注意が必要です。
「足が床につかなかったり、正しいパソコンの位置ではないために前傾姿勢になっていたりしていては、腰への負担も大きくなってしまいます。
また、机の下に荷物があって足元が窮屈といった状態もよくありません。椅子の高さが合わない場合は台を置いて調整するなどして、正しい姿勢を保てるようにしましょう」(檜垣先生)
運動量が少ない
腰痛の原因には、腹筋や背筋の筋力の低下もそのひとつと考えられます。
「体を動かす機会が少ないと、筋力が衰えるのに加えて、筋肉も硬くなって動かしにくくなり、腰痛が悪化するケースもあるのです。
そのため、忙しい中でも合間を見つけて、ウォーキングなど軽い運動でもいいので、体を動かす習慣を持つようにすることが大切です」(檜垣先生)
体が冷えやすい状態で仕事をしている
室内では、冬場はもちろん、夏場でも冷房で体が冷えてしまうことも腰痛につながるといいます。
「体が冷えると血流が滞り、筋肉に緊張や凝りが起こって、それが腰痛につながってしまいます。
そのため、仕事中は極力体を冷やさないように、ひざ掛けの使用やスリッパを履くなどの対策をしてください。
また、入浴時はできるだけ湯船に浸かるようにします。
シャワーで済ますときは水に近いぬるま湯と通常のお湯を交互に浴びると血流が良くなって、筋肉の緊張や凝りがほぐれやすくなります」(檜垣先生)
ストレスを感じているとき
さらに、意外なところでは、ストレスなどメンタル的な要素も腰痛に影響を及ぼすそうです。
「筋肉の状態は、自律神経とも密接な関連があります。筋肉が緊張したり凝ったりしているときは、人間を活動的にさせる交感神経が優位になっていることが多いもの。 特に、普段から腰に違和感を持っている人の場合、例えば仕事でちょっと失敗してしまったり、プレッシャーのかかる大きな仕事を任されたりしたときなど、 精神面での交感神経への刺激が、さらに腰の状態を悪くしてしまうというケースもあります」(檜垣先生)
心理的要因が加わった腰痛の場合、極端な例では、デスクで仕事を始めると腰に痛みが出てきたり、反対にデスクを離れて仕事を終えた途端に痛みがなくなったりすることもあるのだとか。
また、肉体的要因のみの腰痛に比べて治りづらい傾向がありますので、気持ちをすこやかに保つことも腰痛予防に有効といえます。
腰痛になりにくい座り方とは?
長時間、机に向ったままの状態が腰痛になりやすいとわかってはいても、働き盛りのビジネスパーソンにとっては、それを避けることはできません。
そこで、少しでも腰に負担をかけない座り方をご紹介します。
「ポイントは足の状態です。足の裏が床にぴったりとついていること、その状態でひざが90°に曲がっていることが重要です。 また、椅子に深く座った際、座面のあたる太ももの裏に違和感がないかどうかもチェックしましょう。 違和感があると太ももの血流が圧迫され、足の血流が悪くなったり、ひざの角度が変わったりして不安定な姿勢となってしまい、それが腰痛の原因につながります」(檜垣先生)
檜垣先生によると、「そもそも人間が椅子に座っていること自体、腰への負荷が大きい状態」なのだそう。 人間の姿勢の基準となる立った状態では、骨盤は床に垂直になっているのに対し、座った状態ではどうしても傾いてしまいます。 そのため、座ったときに猫背になってしまうのは、構造上仕方がないといいます。
「同じ姿勢で座り続けるのではなく、時々体を動かしてほしいなと思います。骨盤を立てたまま座り続けるというのは、筋力を使うので結構疲れるんです。 もちろん、骨盤の位置を正しくキープし続ける筋力をつけることも必要ですが、仕事中でも筋肉の緊張や凝りをほぐすストレッチを定期的に取り入れるようにしてください」(檜垣先生)
仕事の合間に実践しよう!腰痛改善ストレッチ
最後に、檜垣先生がおすすめする、仕事の合間にできるストレッチをご紹介します。
肩甲骨から背中全体を伸ばすイメージで行いましょう。息を吐きながら伸ばすと、より筋肉の緊張が解けやすくなります。
腰痛のある人は、腰の片側の筋肉だけが凝っているといった場合も多いもの。そのままの状態が続くと体のバランスが偏ってしまうので、左右をしっかり伸ばすようにしましょう。
このストレッチでは、腕の付け根や胸の前側が伸びていることを意識してください。ただし、手を伸ばすときに腰を反ってしまうと、それによって腰を痛めてしまうこともありますので注意しましょう。
長時間、デスクワークが続くという人は、少しでも体の緊張状態を緩和させるために、椅子の座り方を改善したり、時折ストレッチをしたりするなど、同じ姿勢でいないための工夫が大切です。
腰痛生活から解放されるためにも、日々のちょっとした習慣を少しずつ変えてみてはいかがでしょうか。
<プロフィール>
檜垣暁子先生
カイロプラクティック理学士。あきカイロプラクティック治療室副院長。施術のかたわら、肩こり、腰痛に関する豊富な知識を活かし、雑誌や書籍、ウェブなどで執筆活動も行う。
※2020年5月に取材しました
執筆者プロフィール