筋トレにハードさもストイックさも不要!軽めにコツコツが継続の秘訣

テレワークの普及などにより家で過ごす時間が増え、運動不足解消のために自宅で筋トレを行う人が増加中。「家トレ」という言葉も誕生しているほどです。とはいえ、自宅での筋トレは、なかなか継続するのが難しいという声も多く聞かれます。実際に、自宅での筋トレを始めたものの、数日で挫折したという人も多いのではないでしょうか。
自宅で筋トレを継続する秘訣について、パーソナルトレーニングジム「ラクエル」のオーナーであり、パーソナルトレーナーでもある鶴田学さんにお聞きしました。

筋トレで意識すべきは正しい姿勢

──初めに、筋トレにはどのような効果があるのか教えてください。

鶴田さん(以下、敬称略):

多くの方が目的としているように、筋トレにはシェイプアップの効果が見込めます。筋肉をつければ、アスリートのように引き締まった体になるだけではなく、姿勢の改善にもつながります。 姿勢が改善すれば呼吸も改善され、結果的に疲れにくくなるという効果も期待できるんです。
また、筋トレをすることでさまざまなホルモン(成長ホルモン、セロトニン、テストステロンなど)の分泌を促し、ポジティブな気分になります。 中でもセロトニンは、睡眠を促すメラトニンというホルモンの素になりますから、昼間にたくさん分泌しておくと快眠につながります。
体を鍛えて元気になる、よく眠ればさらに元気になる。筋トレは、プラス要素の循環なんです。実際にジムで筋トレにハマっている方は、明るくて元気な方が多いですよ。

──自宅での筋トレを行う場合、特に注意すべき点は何でしょうか?

鶴田:

まず意識してほしいのは、筋トレ中の姿勢、フォームです。正しいフォームで筋トレをしなければ、正しい筋肉はつきません。これは、すべてのトレーニングに通じるといえます。
ただ、それぞれのフォームのポイントさえ覚えてしまえば、種類が変わっても基本は同じですから、応用できます。例えば、プランクの姿勢と腕立て伏せの姿勢はだいたい同じです。
個人で正しい姿勢を見極めるには、鏡でチェックするのが一番です。全身を映す鏡がないという方は、スマートフォンで撮影してチェックするといいでしょう。

「プランク」(左)と「ひざつき腕立て伏せ」(右)の正しい姿勢。首から背筋をまっすぐにすることがポイント。頭の位置が落ちる、肩がすくむ、腰が浮く(または沈む)のはNG。

──姿勢は想像以上に重要なポイントなんですね。

鶴田:

日常生活でも姿勢は大切です。例えば、仕事とか家事で「体がしんどいな…」と思ったときの姿勢って、大抵前かがみで背筋を丸めた悪い姿勢ですから。 そのときに、すっと背筋を伸ばすだけでも、圧迫されていた内臓が解放され、肺の容量も増え、血流も改善します。良い姿勢を作ってあげると、悪い姿勢はすごく窮屈に感じるはずです。

──昨今は、インターネット上に多くのトレーニング動画がアップされていますが、そういった動画も参考になりますか?

鶴田:

参考になると思います。動画の数も多いので目移りするかもしれませんが、特に最初は姿勢を重視して解説している動画をチェックして、マスターすることをおすすめします。

継続の秘訣はがんばらないこと

──自宅での筋トレは、どうしても継続できないという人も多いと思いますが、継続の秘訣はあるのでしょうか?

鶴田:

継続する秘訣は、ハードにやりすぎないこと。人間は、コツコツと小さな目標をクリアすることで、モチベーションが上がっていきます。 いきなりハードな目標を設定して挫折すると、「できなかった」というネガティブな感情につながってしまうだけですから。
特に、トレーニング開始当初は、仕事で疲れていても継続できるやさしい目標を設定するべきです。例えば、筋トレが初めての方なら、「スクワットを1日5回」というように、達成しやすい目標をお伝えします。

──1日5回!意外と軽めなんですね。

鶴田:

「5回で効果が出るの?」と思われるかもしれません。ですが、いきなり「1日30回」と目標を設定して3日坊主で終わるなら、5回を毎日、ひたすらやり続けたほうがいいんです。 1日5回をある程度やり続けると、「もっとできるんじゃないか?」って自然と思い始めます。
例えば、1週間続けて「もっとできそう」と思えたら、次の週は1日10回、その次の週は1日20回…と続けていけば、自然と1日30回になります。 そうやって続けていくと、徐々に筋トレの効果も出てきて、自信にもつながります。その気持ちも、筋トレ継続を後押ししてくれるんです。

簡単な目標から始めていくことが、継続の秘訣。結果はあとからついてくると、鶴田さん。

──それぐらいならできそうな気がしますね。

鶴田:

ただ、注意しなければいけないのは、やる気を勘違いしないことです。 やる気には、目的の動機づけとなるモチベーション以外に、テンションがあります。テンションは、脳内ホルモン(エンドルフィン)の影響によって瞬間的に抑揚する気分のことで、「よしやるぞ!」と勢いがついているだけなんです。
だから、エンドルフィンがなくなればテンションは失われてしまいます。筋トレの第一歩としてテンションを高める方も多いと思いますが、その瞬間的なやる気だけに任せてしまうと長続きはしません。 モチベーションを保つ意味でもハードルを設けず、コツコツと簡単な目標からスタートすることをおすすめします。

呼吸がもたらすさまざまな恩恵

──トレーニングにはいろいろな種類がありますが、初心者におすすめのトレーニングメニューは何でしょうか?

鶴田:

ラクエルで最初に教えるのは、簡単なルーティーンです。理想をいえば、さまざまな部位を満遍なく鍛えるべきですが、「満遍なく行うこと」が心理的な負担になるのであれば、1ヵ所に絞って鍛えるといいでしょう。
どこか1ヵ所を鍛えるのであれば、スクワットが鉄板です。テレビの健康番組などでも、お医者さんは必ずといっていいほど「歩く」か「スクワット」をおすすめしますよね。 その理由は、全身の筋肉の約70%が腰から下についているからです。スクワットは、多くの筋肉を使える運動なんです。

もうひとつ挙げるとすれば腹筋です。腹筋自体の筋肉容量は小さいのですが、姿勢を作って、呼吸を助ける筋肉は、腹筋のインナーマッスルなんです。 腹筋がしっかりするとトレーニング中の姿勢のブレがなくなり、正しい姿勢によって呼吸がもたらすさまざまな恩恵(肩こりの改善、疲れにくさ、リラックス効果)を得ることができます。

■自宅でできるおすすめメニュー例
<体幹:レッグレイズ>

1. 両手を広げて体を支えながら、そろえた両足を胸に引き寄せるように持ち上げる。
2. 両足をゆっくり下ろす。このとき、かかとが床につかないようにする。

<脚、ヒップ:ブルガリアンスクワット>

1. 椅子やソファなどに片足をかけ、両手を軽く耳の後ろ(または腰)にあててバランスをとる。
2. 背筋をまっすぐにしたまま、ゆっくりと腰を落とす。

<背中:リバースフライ>

1. 両足を広げ、背筋をまっすぐにしたまま軽く前傾姿勢になる。
2. 垂らした両腕を開いて、肩甲骨を寄せるイメージで引き上げる。余裕があればダンベルを持ちながら行うとより効果的。

<胸:ひざ立ち腕立て伏せ>

1. ひざをついた状態で背筋を伸ばし、両腕で体を支える。手の位置は肩幅ではなく、1.5倍くらい広げた位置に置く。
2. 胸の筋肉を意識しながらゆっくりと上体を沈め、体が床につかない位置から体を起こす。

──姿勢と同様に、呼吸も重要な要素なんですね。

鶴田:

はい、そうです。姿勢、そして呼吸という土台があって、効果的なトレーニングにつながります。姿勢はトレーニング中の正しい動きの基礎になり、呼吸は動作中の体幹を安定させ、無駄な力みを防ぐことにつながっているんです。 ラクエルでも、最初は呼吸のトレーニングも交えて行います。スクワットをするにしても、呼吸の練習を交えながら取り組んでいます。

トレーニング中の呼吸は、おなか全体に力を入れて固めたまま、みぞおちを360°全方向に呼吸の力で押し広げるように吸う。吐くときもおなかを固めたまま、広がったみぞおちがしぼむように吐きます。 呼吸のタイミングは、例えば腹筋運動のときは、体を起こすときに吐き、体を寝かせるときに吸います。重力に逆らう動きのときに息を吐く、重力に従う動きのときは息を吸うのがポイントです。
また、リラックスする際の深呼吸を覚えておくことも大事です。深呼吸を行うことで、脳が休息モードに切り替わります。吸うときは鼻から5秒から7秒かけて、吐くときは口から6秒から9秒かけてゆっくり呼吸するといいでしょう。

──自宅で筋トレをする場合、どれぐらいのペースで行うべきでしょうか?

鶴田:

体の各部位のトレーニングを、週に1~2回が目安です。1日にまとめてすべての部位を行ってもいいですし、日ごとに分散させてもいいです。 きついと感じるくらいの負荷で各トレーニングを3セット行いましょう。強度が高いトレーニングであるほど、1セットは少ない回数でもOKです。
反対に、強度が低ければ回数は多くしましょう。同じトレーニングを20回、30回と続けても、「しんどい」と感じない場合は、ほかのトレーニングに変えたり、さらに負荷をかけるなどして強度を高めたりすると効果的です。

ちなみに、筋肉痛が出ているあいだは、その部位はお休みしてください。腹筋が筋肉痛ならそれ以外の部位といった感じでトレーニングを変えます。
また、夕方から夜は肉体のパフォーマンスが上がりやすいのでおすすめですが、その時間は働いている方が多いですよね。ですから、時間にも制約は設けず、「できる時間に行う」という考え方が大切です。 「毎日、この時間にやらなきゃ」と思わず、毎日やれるときにやればいいんです。

食事と睡眠も筋トレに欠かせない要素

──トレーニング以外で気を付けることがあれば教えてください。

鶴田:

まずは食事です。簡単な基準でいえば、野菜とたんぱく質、炭水化物を均等にとるべきです。

肉は、筋肉の材料となるたんぱく質として摂取する。1回の食事での摂取量は、自分の手の大きさ・厚さくらいを目安に。野菜は、たんぱく質が筋肉として合成されるのを助ける。 1回の食事での摂取量の目安は、両手が埋まるくらい。

特に、野菜とたんぱく質をきちんととるようにおすすめしているのですが、これは昨今の食事事情を考慮しているからです。無意識に食事をしていると、圧倒的に炭水化物が多くなってしまいます。 そこで、野菜とたんぱく質を意識的に多くとって、炭水化物を軽めに食べていれば、自然とバランスがとれるということです。

──炭水化物を摂取しても大丈夫なんですね。

鶴田:

炭水化物は不要と勘違いされている方もいると思いますが、炭水化物をまったくとらないと肉や野菜などの栄養素が吸収されなくなります。あとは、日頃のエネルギーが枯渇してしまうので、疲労につながってしまう。
炭水化物の量の基準をご飯にするなら、自分の握りこぶしの量を食べるとちょうどいいです。
女性なら体重50kgの方で100g、男性は60kgの方で150gぐらいですね。

──その中でもなかなか、野菜をとるのは難しいと感じます。

鶴田:

実は、野菜が不足した食事をしていると、体がビタミンやミネラルを常に必要としている状態になるため、脳は満足しないんです。 ですから、たんぱく質と炭水化物…肉とご飯だけでおなかいっぱいになっても、ビタミンやミネラルが足りないと「物足りないな…」と感じてしまう。
しっかり食べているはずなのに、間食がやめられないのはそれが理由です。家にこもっていると間食しがちですが、バランスの良い食事ならそれも防ぐことができて、結果的にダイエットにもつながるんです。

──そのほかに気を付けるポイントはありますか?

鶴田:

睡眠です。睡眠の質を良くするため、寝る前に首のストレッチを行うようおすすめしています。 寝ている途中で目が覚める、朝起きたときに疲れがとれた感じがしないというケースは、脳が完全にリラックスできておらず、眠りが浅い場合が多いんです。その緊張を断ちきる行為が、ストレッチなんです。

首の真横の筋肉(左)と首の斜め後ろの筋肉(右)をそれぞれ左右30秒ずつ、合計2分間ストレッチする。

特に首のストレッチは、脳を一番リラックスさせるという研究結果があります。寝る前にわずか2分。それだけで睡眠の質が良くなるといわれています。
2分間だけストレッチをがんばれば、ぐっすり睡眠できる…。そう考えると、「やってみよう」という気持ちになりませんか?たった2分だけ費やせば、得られるものは何倍にもなって返ってくるんです。

──これから筋トレを始めようと思っている人は、どのような意識で臨めばいいでしょうか?

鶴田:

自分に優しく、根気強く継続することです。世間的にはハードでストイックに筋トレするという情報ばかりがあふれていますが、我慢もこだわりも不要です。 雑音を真に受けずに、「コツコツ行うのが効果的」という情報が広まるといいなと思っています。
結果は、コツコツやらないとついてきません。今日、明日、明後日…という具合に、継続して初めて結果がついてくる。それは、仕事でも勉強でも趣味でも同じじゃないかと思います。 継続してコツコツやってきたから、今の自分があるんです。
いきなりわかりやすい結果は、短期間では出ません。見た目の成果や数字ではなく、「昨日もできた、今日もできた」という気持ちを大事にしてください。 それが積み重なった後に、「理想の自分が待っている」という発想で筋トレをしたほうが、きっと楽しく、長続きできると思います。

<プロフィール>

鶴田 学(つるた まなぶ)

1977年生まれ。東京農業大学在学中に始めたボクシングをきっかけに、トレーナーとしての道を歩み始める。富士アスレティック&ビジネス専門学校卒業後、スポーツの現場や健康教室などで経験を積み、 2009年にフリートレーナーとして独立。2010年、五反田にパーソナルトレーニングジム「Feu(フー)運動場」を開業。2015年10月に同ジムを移転し、「ラクエル」としてリニューアルオープンした。

※感染対策に十分に配慮して取材および撮影を行いました

 

執筆者プロフィール

  • 本稿は、執筆者が本人の責任において制作し内容・感想等を記載したものであり、SBI新生銀行が特定の金融商品の売買や記事の中で掲載されている物品、店舗等を勧誘・推奨するものではありません。
  • 本資料は情報提供を目的としたものであり、SBI新生銀行の投資方針や相場説等を示唆するものではありません。
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